BroadwellがHaswellよりも
性能で優位なのは3.2GHzまで
それではそのBroadwell世代の話に移ろう。Broadwellで利用される14nm世代プロセスの話は連載260回で解説し、さらに連載267回でアップデートしている。
Broadwellは2014年8月の頃にやっと断面図を公開できるほどになった。ただし、量産に入れるまでにはもうしばらく時間がかかった。結局2014年中に出荷できたBroadwellは、TDPが4.5WのBroadwell-Yベースの「Core M」プロセッサーのみだった。
Core Mそのものの出来は非常に良いのだが、例えば「Core M-5Y71」は最大2.9GHzとうたいつつ、定格はわずか1.2GHzでしかない。
「Core M-5Y71」の場合、Configurable TDPの設定を変更すると1.4GHz駆動になるが、その場合のTDPは6Wになる。つまり2.9GHzはTurbo Boostを利用した瞬間最大風速みたいなもので、連続してこの動作周波数で動くわけではない。
幸いにも今年2月に入り、やっと同じモバイル向けといいつつ、消費電力が15/28W枠となるBroadwell-Uがラインナップされるようになった。
動作周波数は、「Core i7-5557U」で定格3.1GHz/最大3.4GHzとずいぶん現実的なところまで引き上げられており、これが28W枠で収まることになっている。これでやっとP1272は安定して量産が出来るようになった、とみなしていいだろう。
ところでこの原稿を書いている時点では、Intel ARKにはBroadwellコア製品が合計26製品登録されている。うち24製品はモバイル向けだが、先日発表になった「Xeon D」シリーズ2製品も含まれている。この26製品のTDPと動作周波数をまとめたのが下のグラフである。
大半の製品は2コアであるが、Xeon Dのみ4/8コアなので、これのTDPは2コア換算とした(つまりXeon D-1520なら22.5W相当、Xeon D-1540なら11.25W相当である)。
またCore MはConfigurable TDPで動作周波数を少し引き上げられるので、これもデータに入れてある。青点が製品のスペック、破線が近似値を示すが、2GHzあたりから急激に上昇しているのがわかる。
これは、Broadwell-Hを構成するためにはあまりよろしくない。Broadwell-Hはメインストリーム向けの4コア製品で、TDPは37/47Wになっている。4コアで37/47Wなので、2コアでは18.5W/23.5WほどのTDPに収めないといけない。
近似値でまとめてみると、18.5Wは2.3GHz強、23.5Wでも2.7GHzに達するかやや微妙というあたりになる。実はこのままだと、22nm世代のHaswellより動作周波数が落ちることになってしまう。
例えばHaswellベースの「Core i7-4900MQ」の場合は4コアで定格2.8GHz/最大3.8GHz駆動が47W枠に収まっているからだ。
わかりやすくするために、Haswellの数字も加味したものを下のグラフに示す。赤がHaswell、青がBroadwellだ。
ラフに言えば、Broadwellが性能で優位なのは3.2GHzあたりまでであり、その先はむしろ急激に消費電力があがる傾向にある。
要するにBroadwellが同じTDP枠でHaswellよりも優位性を出したいと思ったら、動作周波数を3.2GHz未満に抑えなければならないことになる。
このことそのものは不思議ではない。何度か書いてきた通り、現在のBroadwellに利用されているP1272というプロセスはSoCなど低消費電力向けのプロセスなので、動作周波数が低いところでは省電力性に優れる反面、動作周波数を上げていくと急速に消費電力が増える。
他方Haswellに利用されているP1270は、22nmのロジック向けプロセスで、動作周波数を下げてもそうそう消費電力は減らない一方、動作周波数を上げても消費電力の増え方はなだらかである。
つまり、Broadwell-HやBroadwell-Kは、14nm世代のロジック向けとなるP1273を利用すれば、もっと上まで伸びることが期待できる。
→次のページヘ続く (Broadwell-Kの出荷時期は早くて8月)
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