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25年前からTCP/IPとインターネットやってきた先輩に話聞いてみない?

西麻布のバーでNTT Comの宮川エバに聞いたテッキーなお話

2015年03月25日 16時00分更新

文● 大谷イビサ/TECH.ASCII.jp 写真●曽根田元

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もうインフラはいいですよという若者は多いけど……

 そして直近で宮川さんが取り組んでいるのは、セキュリティの分野。さまざまな脅威が蔓延し、企業・個人のインターネット利用の大きな障壁となる昨今。ネットワークの技術を活かして、こうした脅威に対抗していこうというのが、宮川さんたちR&Dグループの取り組みだという。こうした中、宮川さんはディスカッション相手となる若手とのギャップに驚かされるという。

「ウイルスのバイナリ解析とかやるとき、役立つのは結局アスキーで勉強した8ビットコンピューターのアセンブラの読み方。僕のようなパソコン少年は、はんだ付けしてチップから組まないと、コンピュータ環境が手に入らなかった。でも、そのときの知識って、今の複雑化したコンピューターを見る時にも役立ってると思うんですよ。部下からはアセンブラ知ってるんですか?と驚かれるけど、逆にお前らアセンブラやハードウェア知らないのかと問い返しちゃいます」

「リクルーティングやっていると、もうインフラはいいですよという若い人も多い。これはある意味、引退しない僕らが悪い。どんな技術分野でも、最初にとりかかったヤツは簡単なことをやっても、褒めてもらえるでしょ。いまなら簡単なことでも、20数年前にやったから偉いと言われるだけ。その点、今はいろんなことがやりつくされている。ニッチな部分にオリジナリティが出せても、そこに追いつくまでに時間がかかるし、先に知っているオジサンたちがその部分もやっていってしまう。インフラエンジニアが少なくなるのはしょうがないし、それはそれで健全だと思う」

「逆に僕らが弱いのはアプリ。若い人には絶対に負けますね。HTML5のカンファレンスやると、聞いている年齢層が違うし、熱気に溢れています。若いときって先輩より自分の方がわかってるのになあって思うじゃないですか。彼らにとってはアプリがまさにその分野。TCP/IPで宮川と勝負するのはさすがに難しいから、アプリで勝負しようと考えている。僕たちが若かったときもそうだったから正しいと思いますよ。一方で、僕らの跡を継いでくれるインターネット系の若い人は、自分に自信も持っているし、本当にすごい人材が揃っている。こういうワクワク感を持ったエンジニアが増えてくるといいなあと思いますね」

「ワクワク感を持ったエンジニアが増えてくるといいなあと思いますね」

25年に渡ってインターネットで戦い続けてきた

 「ああ、宮川さんは1990年初頭からもう25年の長きに渡って、ずーっとインターネットで戦い続けてきたんだ」。話を聞き終えた後の大谷の感想である。

 担当は長らくネットワーク雑誌の編集を務めてきたが、ここ5年はWebメディアに移って、ハードウェア、セキュリティ、クラウド、ビジネス領域までそのカバー範囲を拡げてきた。しかし、フィールドが拡がった分、以前に比べ、知識や市場への洞察が専門性を欠けてきた自覚はある。そんな中、宮川さんは揺らぐことなく、インターネットを安全で安心に使えるよう日々研鑽を重ね、ユーザーが使えるサービスとして世に送り出してきたのだ。宮川さんはこう言う。

「たとえば、光ファイバーの伝送能力はまだまだ増速している。多重化や光コヒーレント伝送技術などで100Gbps、1Tbpsも技術的には可能。10年前、 家に1Gbpsひけますって言っても、信じてくれなかったけど、今では現実的な料金で使えるでしょ。だから10年後に家に1Tbpsっていうのは全然ありえるんです。確かに産業としてのインターネットはやや落ち着いちゃったところはあるけど、技術屋としてはまだまだやることがある」

「インターネットをよりよくしたいと若い頃から思っていた僕にとって、今インターネットが使いやすくなったというのはとてもいいこと。『やっぱり僕がNTTに行ってよかったでしょ』って村井さんに話したことあるけど、村井さんも『もういいよ』って言ってくれた。あのとき村井さんにつっかかったときのフラグは回収していると思うんですよね」

 宮川さんが語る25年の歴史にちょっと感動を覚えながら、西麻布の夜は更けていく。

fin

宮川晋

NTTコミュニケーションズ ネットワークエバンジェリスト。北陸先端科学技術大学院大学客員教授、東京工業大学および名古屋大学非常勤講師、慶應義塾大学SFC研究所上席研究員(訪問)などを務める。

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