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東日本大震災被災地の現状と、子供たちの笑顔を作る破牙神ライザー龍

2015年03月11日 10時00分更新

文● MOVIEW 清水、編集●オオタ/ASCII.jp

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被災地のヒーロー・破牙神ライザー龍

 筆者は常々、日本にはアニメや特撮があることに対しものすごく感謝することがある。日本中のほとんどの子供たちが、アニメや特撮を通じて正義の心や道徳といったものを自然に学び、育っていく。情操教育という言葉があるが、アニメや特撮はそういった面でも役立っていると感じている。

 その昔、ウルトラマンや仮面ライダーに憧れた子供たちは、そこから正義を学んだはずである。そうしたヒーローが何十年もの間、テレビで放送されていることは日本にとって幸せなことである。

 しかし、東日本大震災によって被害を受けた地域では、津波による地盤沈下、更地の減少、また、放射能の影響により外での活動が制限される場所が数多くある。宮城県の県南には、福島県の中通りの西側より線量が多い地域があり、外で遊びたくても遊べないところがあるのだ。

 震災によるさまざまな制限によってフラストレーションをためる子供たち。その子供たちに本物のヒーローを届けたい。そんな想いからスタートしたRYU PROJECT、そしてそのヒーローである破牙神ライザー龍。日々、幼稚園や仮設住宅の集会所などを無償で慰問している彼らの活動についてお話を伺った。

宮城のヒーロー・破牙神ライザー龍。石巻市 万石浦幼稚園のお誕生日会にサプライズ訪問

誕生のきっかけを教えてください。

RYU PEOJECT 佐藤さん:すべてのきっかけは、震災から1ヵ月半経った4月下旬に避難所からかかって来た1本の電話でした。その電話をかけてきた方は、震災で避難所にいる子供を持つ父親でした。その方から「避難所の子供たちのところにTVヒーローが来ていただけないだろうか……」という相談があったのです。

 震災当初、被災地の大人たちは、家族の命、自分の命を守り、生活の立て直しに必死で、子供たちに目を向ける余裕がなかったそうです。しかし、震災から1ヵ月が過ぎ、子供たちに目を向けたときに発せられた言葉が「TVヒーローに会いたい!」だったのです。その子供たちの声を私たちに届けてくれたのが、その1本の電話だったわけです。

 最終的には、さまざまな理由で、TVヒーローの慰問はかないませんでした。

 しかし、「なんとかして子供たちに笑顔になってもらいたい」と思ったその方の気持ちや、子供たちなりに我慢してきた中での声だと思うと、私たちは動き出さずにはいられませんでした。

インタビューにお答えいただいたRYU PROJECTの佐藤さん。幼稚園慰問ではMCも担当する

そこで破牙神ライザー龍が誕生するわけですね?

佐藤さん:そうなんです。5月初旬には、東北地区のキャラクターショーに携わっていたメンバーを中心に、音楽関係者や学校の先生等、11名のメンバーが集まりスタートしました。

 最初はみんなでお金を出し合ってTVキャラクターを呼ぼうかという話もあったんです(※東北地区のTVヒーローのキャラクターショーの金額は約60万円~65万円)。でもそれだと1回や2回は実現できたとしても、避難所はそこだけではないし、ほかの避難所にいる子供たちが同じ思いをしているかも知れない……。だったら自分たちで作ってしまおうという話になりました。

 一からキャラクターを作ったことはありませんでしたが、幸いなことに、立ち上げメンバーのほとんどが、東北地区のキャラクターショーに携わっていた人たちだったので、キャラクターに対するノウハウや人脈は十二分に持っていました。

 当初はご当地色を出すアイデアも出ましたが、すぐに「キャラクターはテレビクオリティーで作る」という形で、皆の意見は一致しました。なぜなら、避難所の子供たちはバラエティー的なご当地ヒーローに会いたいのではなく、TVヒーローに会いたいのです。私たちが作るヒーローは、子供たちがそのヒーローに会って、勇気と希望を感じ取ってくれる頼もしい存在にならなくてはなりません。そこで「ご当地」という要素は前面に出さず、背景に留めるだけにして、あくまでクオリティーにこだわりました。

 タダだからこのくらいでガマンしてというものではなく、「僕や私のところにはこんなカッコイイヒーローがいるんだ」と子供たちが誇れるようなヒーローを目指しました。

今月お誕生日の子供たちと。この後、全園児と順番に写真撮影を行ない、一人一人全員と握手をしていた

これだけのスーツを作ったりすると費用面でも大変だったのではないですか?

佐藤さん:そうですね。龍と、その敵となる傲魔一族まで、そのとき考えていたすべてのキャラクターデザインを見せて見積りをとったら、約900万円でした。さすがに、900万円という金額は無理と言わざるを得ませんでした。

 造形の担当していたメンバーと造形会社がいろいろ相談して、素材を変更したり、敵の中からヤガールとヴァイアグロスを削り、パッケージショーを行なえる最低数のキャラクターだけを作ることにしました。それでも立ち上げまでに500万円くらい必要でした。

 そこからリュウプロジェクトのメンバーでの資金集めが始まりました。ツテをつたって頭を下げて寄付していただいたり、ほんの少しの縁しかなかったところにもいって「その節はお世話になりました」とか言いながら、1万でも2万でもとお願いしてなんとか工面しました。

 今でしたらクラウドファンディングや助成金などの制度もあるのでしょうが、あの当時はそのような制度もまったく知らず、ただひたすら皆で「俺たちがやらなきゃ!」、「その願いを叶えてあげられるのは私たちしかいない!」の思いで一生懸命でした(笑)。

 でも、その甲斐があって、助成金にも頼らず、自分たちの資金と、共感してくださった方々の資金のみでスタートできました。

立ち上げだけでなく、運営費も必要ですよね。

佐藤さん:リュウプロジェクトでは、企業や市町村の行政などにフルパッケージショーを買っていただいたり、企業協賛やキャラクターの意匠権を売ったり、グッズ販売等で運営費をまかなっています。

 今年も「破牙神ライザー龍スーパーライブ2015」という会館型のショーを去年に引き続き行なうのですが、その費用を持ち出しで行なうだけの体力はありません。そのショーを開催するだけで200万円くらいかかるんです。

 今年も、全額ではありませんが、大口の企業協賛を頂くことができ、なんとか開催できる目処がつきました。しかし、残りは私たちで集めなくてはなりません。また、スーパーライブ以外にも、年間200回を超す幼稚園や保育園での無償公演の費用も掛かります。

 これからも、ショーやグッズ販売に力を入れ、新規スポンサーなども獲得できるように頑張ります!

みんなにスーパーライブの告知。地道な活動に頭が下がる思い

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