Carrizoがデスクトップ向けに
導入される可能性はない
さて話をCarrizoに戻そう。KaveriはHigh-Speed Library、つまり12トラックあたりのCell Libraryを利用して設計されていた。
ところがCarrizoではこれを9トラックないし7.5トラックあたりのCell Libraryで再設計し直したということを下の画像は述べているのである。
この結果として、モジュール(=2コア)あたり20W程度の消費電力の範囲で言えば、相対的にCarrizoの方が性能/消費電力比が改善した、というのが右のグラフである。
実際、同じ28nmプロセスを使いながら、Kaveriで利用していたSteamrollerコアに対し、Carrizoで利用しているExcavatorコアは30%近くダイサイズを縮小することに成功している。
もちろんこれはCPUだけでなくGPUにも反映されるはずなので、同じダイサイズであればCarrizoは30~40%程度GPU側のシェーダー数を増やすことが可能で、こちらはそのまま性能改善につながる。
一方、下の画像の左にあるグラフは、トランジスタのOn/Off電流特性である。横軸がトランジスタOnの時に流れる電流値、縦軸がOffの時に流れる電流値(要するにリーク電流)である。
高速化のためには、多少リーク電流が増えてもトランジスタOnの際の電流値を大きくとるほうが有利で、それが左のグラフにおける赤い点である。
ところがCarrizoでは、むしろリークを減らすことを選んだ結果として、水色の点のような動作条件を選んでいる。
つまり、全体としてCarrizoはトランジスタを省電力に振る形で動作させており、これにより同じ消費電力であればKaveriよりも高い動作周波数に振ることが可能になった。
なぜこれがトドメをさしたことになるかと言えば、Carrizoは「20~25Wあたりの消費電力の範囲で性能を改善する」という、Kaveriの特性をさらに低消費電力側に振ったチューニングを施したことが明らかになったからだ。
例えばPhoto05のグラフで言えば、20WあたりでKaveriとCarrizoのカーブが交わっている。2コアで20Wなので、4コアでは40Wということになり、AMDの現在のラインナップでは「A10-7400P」あたりのグレードのものはCPU速度が同等で、もう少し下がる「A6-6310」などなら性能改善が期待できる結果となる。
ではデスクトップ向けはどうかというと、モジュールあたり30Wとなる「A8-7600」や、モジュールあたり40Wを超える「A10-7800/7850K」などをCarrizoで置き換えると、むしろ動作周波数が落ちることになってしまう。
つまり、モバイルの置き換えはCarrizoで可能になるが、デスクトップの置き換えは不可能、というのがISSCCにおけるAMDの発表の骨子だったからだ。したがって、Carrizoはデスクトップ向けに導入される可能性はなくなったというのが現状である。
2015年はKaveriのマイナーチェンジ
2016年にはZenコアベースの製品が出るかも
では今後は製品が出ないのかというと、そういうわけでもないようだ。現状聞こえてきている話では、今年6月のCOMPUTEXのタイミングで、新たにGodavariというコアが投入される。もっともこれはTrinity→Richlandと同じく、Kaveriのマイナーチェンジに留まる模様だ。
※お詫びと訂正:記事初出時、Llano→Trinityとありましたが、正しくはTrinity→Richlandになります。訂正してお詫びします。(2015年3月11日)
本当にわずかな動作周波数の向上がある程度で、あとは下位モデルの製品もすべてDDR3-2133をサポートするようになるのが主な違いといったところ。モデルによっては、むしろ動作周波数が下がるケースもあるようだ。今のところ動作周波数とメモリーサポート以外になにかしら違いがあるという話はまったく聞こえてこない。
「ではその次はないのか?」というと、これは確定ではないがZenコアが、もしかしたら2016年には投入される「かもしれない」。
AMDは昨年からアンビデクストラス・コンピューティングなる名のもとにARMとx86の融合を進めているのは連載253回で取り上げた。この融合、いきなりは無理であり、段階を踏んで行なうことになっているのもすでに説明している。
ここで2015年はCortex-A57コアとPuma+コアをベースに20nmに以降し、2016年以降にK12コア(これはARM v8-AベースのAMDの独自コア)と新しいx86コアが導入されることになる。
この2016年以降に導入されるコアがZenである。今のところは詳細は不明だが、Bulldozer系列とはまったく異なる、ある意味K7/K8世代に戻ったような構成にSMTを組み合わせたものになる、というのが前評判である。
正直どうなるかは、AMDが厳重な箝口令を敷いており不明だが、こうした先祖返りはインテルもBanias→Core iの世代でやっている事だから別に不思議ではない。
実のところ、Project Skybridgeの世代はまだCortex-A57ベースなので、サーバー向けとしては比較的軽めなワークロード向きの製品であると予想されるが、K12世代は本格的にサーバー市場を取りに行くための構成であり、コアの位置づけそのものがヘビーワークロード向けの高性能を指向したものになると思われる。
実際これでインテルのXeonのマーケットを奪い取るつもりなのだから、相応に重厚なコアとなるだろう。であれば、Zenコアは高性能デスクトップにも理論上はそのまま利用できる「はず」である。
このあたりは肝心のAMDがロードマップを出さない、という形で攪乱しているために明確なことは言いがたいのだが、ビジネス用途向けにもまだデスクトップは必要であり、この市場を維持するためにもデスクトップ向けのソリューションはまだ必要である。
それを勘案して、2016年にZenコアベースの製品が出る「かもしれない」ということで、記事冒頭のロードマップ図には一応入れさせてもらった。
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