ステンレスボトルは効いている
さて、最高に気になる音ですが、これは搭載されている40mmフルレンジスピーカーの素性に近い音だと想像できます。DSPの補正で小径ユニットで足りない帯域を補っているのではと想像もしましたが、そうした積極的な音作りをやっている印象は受けません。
率直に言えば、低音は出ません。パッシブラジエーターを使い「小さくても低音が出てすごい」のが当たり前になったBluetoothスピーカーの世界で、小径フルレンジの音をダイレクトにそれなりに聴かせることに注力した、近頃かなり珍しいスピーカーです。
スピーカーの中心と正対するポジションでは、若干ミッドハイがきつく、ハイハットのチップ音が目立つものの、確かに音はクリアで、このクラスのスピーカーにありがちな紙っぽさや、くぐもった感じはしませんでした。もちろんボリュームを上げても、プラスチックのエンクロージャーに見られるような箱鳴りはありません。この辺は、お題目通りの高真空二重構造以外に、ステンレスボトルの剛性も効いているように思えます。
ただ、せっかく丈夫なエンクロージャーを作ったのだから、もっと低音はブイブイ言わせても良かった気がします。この辺は、携帯性にフォーカスしない次世代機の企画開発に期待したいところです。
なおBluetoothスピーカーでは気になるレイテンシー、すなわち動画視聴で音声が遅れて再生される現象ですが、iPhone 5cや初代iPad Airで再生した場合は、BPM120くらいの曲で8分音符が1個か2個分ほどズレてしまう感じで、ちょっと気になりました。
160gという軽さを活かした使い方をしたい
画期的な音を期待すると肩透かしを食らうというのが正直な感想ですが、ポータブルBluetoothスピーカーとしては面白い存在だと思います。小型軽量で頑丈な作りですから、ベッドサイドからアウトドアシーンまで活躍してくれるものと思われます。
難があるとすればモノラルで1万800円、ステレオで1万9440円という価格でしょう。たとえばヴェクロス同様、左右スピーカーをケーブルをつなぐスタイルのBluetoothスピーカーでは、OlasonicのTW-BT5がステレオペアで1万円台前半です。音質的には抜きん出た製品ですが、アンプを内蔵したアクティブ側のユニットは480gと重たい。
やはりヴェクロスが活躍するのは携帯性が重視される場面でしょう。モノラルで160gという軽さは鞄の中に入れても苦になりません。おそらくサーモスのステンレスボトルを持ってゆくようなシーンには最適と思われます。
著者紹介――四本 淑三(よつもと としみ)
1963年生れ。フリーライター。武蔵野美術大学デザイン情報学科特別講師。新しい音楽は新しい技術が連れてくるという信条のもと、テクノロジーと音楽の関係をフォロー。趣味は自転車とウクレレとエスプレッソ