ASC Red Stormとほぼ同じタイミングで、ASC(Advanced Simulation and Computing Program:先進シミュレーションおよびコンピューティング計画)の100TFLOPSに向けての計画もスタートする。これはASCI Whiteの後継システムにあたる。ASCI Whiteが10TFLOPSなので、単純に10倍のシステムである。
2002年11月19日、米エネルギー省とIBMは総額2億9000万ドルもの契約を結ぶ。ただしこれはASC Purpleだけではなく、Blue Gene/Lも含んだものであった。ASC Purpleが100TFLOPS、Blue Gene/Lが300TFLOPS以上という理論演算性能であり、金額こそ大きいものの単価あたりの演算性能でいえば従来までのASCI/ASCシステムをだいぶ上回ることになる。
もっともASC Purpleとその付帯設備だけで2億3000万ドルにものぼり(付帯設備の価格は総額2億9000万ドルの契約金には含まれない)、ASC Purpleだけではお買い得感は薄く、逆にBlue Gene/Lのお買い得感が異様に高いわけだが、このうちBlue Gene/Lはあらためて解説するとして、今回はASC Purpleについて説明したい。
最後のSMP+クラスター構成のマシン
ASC Purple
ASC Purpleは初期のASCI計画の総仕上げ、かつSMP(Symmetric Multiprocessing:対称型マルチプロセッシング)+クラスターの構成を取った最後のシステムである。ただこう書くとやや語弊があるのでもう少し細かく説明しよう。
初期のASCI計画というのは1996年頃に策定されたこのロードマップで、2002年頃に投入される予定となっていた100TFLOPSを実現するという意味である。
もちろん計画そのものは以前連載286回で説明した通り、ASCIからASCに切り替わり、今では1PFLOPS目指して引き続き計算能力の増強に向けた開発が進んでいるが、100TFLOPSが1つのマイルストーンであったことは間違いなく、その意味では記念すべき位置づけにあると言える。
もう1つの最後のSMP+クラスターであるが、この後も引き続きASCではSMP+クラスターを使い続けている。ただしその位置づけはやや異なる。2021年頃までのASCのロードマップによると、ATS(Advanced Technology System)向けはこのASC Purpleが事実上最後のSMP+クラスター構成で、これに続くシステムは基本MPP(Massively Parallel Processing:超並列)ベースとなっている。
ところがCTS(Commodity Technology Systems)向けは、Linuxベースのマシンをクラスター構成でつないだものがこの後も使われ続けている。ただこちらは“Commodity”という名前が示すように、既存の廉価なシステムを大量に並べるというもので、ピーク性能を狙った構成ではない。
前回Capability Computingの話をしたが、ASCでいえばATSのシステムがこのCapability Computingを追求するラインナップであり、一方CTSはこれと対を成すCapacity Computing(日本語訳は「計算容量によるコンピューティング」)を目指したシステムである。したがって、ASC Purpleは正確に言えば「Capability Computingを狙った、最後のSMP+クラスター構成マシン」ということになる。
さてそのASC Purpleであるが、2002年にはPOWER5プロセッサーを12554個集積したSMP+クラスターの構成で、その意味ではASC Whiteのスケールアップ版と考えて問題ないだろう。まずはそのPOWER5プロセッサーについて解説しよう。
→次のページヘ続く (ASC Purpleのプロセッサー「POWER5」)
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