独立行政法人産業技術総合研究所(産総研)は2月24日、トンボは極めて多い色覚遺伝子を持ち、幼虫と成虫、成虫の複眼でも上と下で異なる光センサーを使い分けていることが判明したと発表した。
色覚に関わる光センサーを作り出す「オプシン遺伝子」と呼ばれる遺伝子があり、人間は青色/緑色/赤色それぞれに対応したオプシン遺伝子を持つが、昆虫は紫外線のオプシン遺伝子も持つ(その代わり赤色が見えない種が多い)など、人とは異なるオプシン遺伝子と視覚を持っている。
産総研と東京農業大学では、最新の遺伝子解析装置「次世代シーケンサー」を用いて生物の遺伝子解析を進めており、今回トンボの遺伝子を網羅的に解析した結果、オプシン遺伝子のトンボの視覚に関わる新たな発見がなされた。
複数の種のトンボの遺伝子を解析した結果、トンボは他の昆虫と比べても多い20種類ものオプシン遺伝子を持つことが分かった。視覚型としては紫外線タイプ、短波長(青)タイプ、長波長(緑~赤)タイプがあり、たとえばアキアカネは紫外線タイプを1種類、短波長タイプを5種類、長波長タイプを10種類、非視覚型を4種類を持つ。
遺伝子がどのように発現するかも調べたところ、幼虫の際は発現するものの成虫になる際は使わない遺伝子、さらに成虫においても背側の複眼と腹側の複眼では使う遺伝子が異なることも判明した。トンボの幼虫は水中で生活するため生活環境に色がが少なく、また水中透過率から光も長波長に寄っていることになる。また、成虫においても直射日光を受けつつ上空を見るための背側では短波長、地上からの反射を受ける腹側は長波長という使い分けがなされている。
トンボが生息する環境ごとに使い分けれる遺伝子セットを研究することで、生物の適応機構の理解がいっそう深まることが期待され、研究チームでは光受容細胞レベルで研究することで遺伝子の詳しい特性を調べるとしている。