クラウド事業者とISPとしての顔を活かすマルチクラウド戦略
こうした中、IIJはクラウド事業者とISPとしての顔を活かす形でマルチクラウド戦略を進める。
クラウド事業者としての提案は、マルチクラウドの第1の活用先となる「プライマリクラウド」という選択だ。まずはオンプレミスの第一の受け入れ先となるべく、オンプレミス同様の自由度、柔軟性、移行のしやすさ、そして高い信頼性を確保する。その上で、他社のパブリッククラウドとの一体提供を進め、オンプレミス、他社クラウドを含めた運用を提供していくという。さらに複数クラウドの認証やクラウド間のAPIの差異を吸収する統合ポータルを提供し、「マルチクラウドのオーケストレーション」を実現していきたいと説明した。
また、クラウド事業者やSIer向けのネットワークサービスを拡充し、「クラウドネットワークプロバイダー」となる。たとえば、ISPとしての強みを活かし、複数のキャリアでの接続を可能にしたり、SIerのデータセンター間を相互接続することで、クラウドインテグレーターに対してクラウド間ネットワークを提供する。さらにセキュリティや帯域制御、認証機能をNFV(Network Function Virtualization)で提供し、ユーザーがオンデマンドでネットワークを拡張できる環境を提供するという。
専有VMware環境でSAP ERPシステムもクラウドへ
マルチクラウドとともに、もう1つのキーワードになるエンタープライズに関しては、IIJ ソリューション本部 エンタープライズソリューション部長の染谷直氏が、基幹システムでのクラウド活用、特にSAP ERPの活用事例を紹介した。
IIJは2013年4月にSAPクラウド認定パートナーを取得し、「IIJ GIO for SAPソリューション」を展開してきた。以降、引き合い・提案は150件以上に上り、25社以上の受注が決まっているという。「基幹システムのクラウド化は今までIT部門ではあまり考えられなかったが、今は活況化している」(染谷氏)。この背景としては、ハードウェアリプレースのコストを平準化したい、運用を一元化したい、インフラをアウトソーシングしたいといったニーズがあるほか、SAP HANAのような最新テクノロジーが十分に利用できるようになってきた点が挙げられる。
IIJは、SAP ERPシステム向けにVMware環境を提供する「IIJ GIO VWシリーズ」を提供している。VMwareの専有環境を提供するIIJ GIO VWシリーズは、「他社のクラウドとはまったく異なるポジショニングを持っている」とのことで、「持たないプライベートクラウド」として高いセキュリティと柔軟性を持つ。また、今まで培ってきたVMwareの導入・運用ノウハウがそのまま活かせるのが大きな強み。手厚いアカウント営業やサポートも得られるため、他のパブリッククラウドと差別化できているという。
染谷氏は、SAP ERPを含めた社内システムをクラウドに移行したタマホームをはじめ、購入済みのHANAを持ち込んでクラウドとハイブリッド化した電気機器メーカー、クラウドを活用したDR、オンプレミス、IIJ GIO、さらに他社のパブリッククラウドとのマルチクラウド、自社ブランドでのクラウドサービス展開などの事例もあわせて紹介した。