空間表現が秀逸。音楽の世界を綺麗に描き出す
3曲目はバルカローレである。ゆるやかな伴奏に女声ボーカルが乗る、全体的に静かな楽曲だ。
この楽曲でも高音部の優秀さは健在である。特に「サ」のような摩擦音、「ツァ」のような破擦音で、空気の擦れる音が非常に生々しく聴こえる。これが女声ボーカル特有の艶かしさと独唱の透明感を引き立てていた。
それに加えて開放的な音響空間が素晴らしく、声が自然に響き、音が良く伸びて心地良かった。バックのアンビエントも自己主張が強くなく、旋律と上手く調和しており、音楽が自然な感じで存在しているように聴こえた。オープン型の利点全開である。
課題曲の最後は真昼のトレヴィの泉だ。大編成オーケストラのアコースティックな響きやホールの空間表現がどのようなものかといったあたりが聴きどころになるが、さてどのような音が飛び出してくるだろうか。
Hotel Californiaでも感じたが、最初に耳についたのが低音のスポイル感だ。オーケストラ音源ではホールの響きの密度に関わるところだが、ここがちょっと薄味になるので、曲想上、そして演奏上の熱気など、濃密さを求めたい部分の再現がイマイチになってしまうのである。それでもホール的な音響空間は自然で気持ち良く、トランペットやトロンボーンといった金管楽器の響きが自然に伸びていた。
一方でピアニッシモでも各音のバランスが崩れないということには感心した。オーケストラのようにダイナミックレンジが広い音源では、大音量が心地良いと小音量の時には崩れ気味になる場合があるのだが、このイヤフォンではそう言った音の崩れは見られない。しかし、大音量時の伴奏が少々埋もれ気味な点に関しては改善の余地がある。ダイナミックとBAの、空気の振動量の差に起因したものに感じられた。開放型ハイブリッドという新ジャンルの、設計の難しさが表れている。
課題曲4曲を聴き終えての総評としては、全体的に空気感が自然に聴こえて非常に心地良いという印象が強かった。低音にもう少しメリハリを求めたい面もあるが、大編成でも小編成でもソツなく朗々と歌い上げる。方向性としては音像を描き出すのも悪くないが、音色や音響空間を美しく描き込む、音場表現がより得意なイヤフォンであると感じた。
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