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SACDとハイレゾ版の音質の違いをマスタリング・エンジニアに直撃

麻倉怜士が「ハイレゾ版 松田聖子」の音の魅力に迫る

2015年02月27日 09時00分更新

文● 荒井敏郎 編集部●ASCII.jp

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この部屋から松田聖子のハイレゾは誕生した

ハイレゾ版の松田聖子を聴く際のポイント

麻倉: それではハイレゾ版から3曲を選んで聴いてみましょう。それぞれの聴きどころなどの特徴をお話しします。

──「風立ちぬ」試聴

「風立ちぬ」2014年12月24日配信

麻倉: それぞれの楽器が音がよく聴こえますよね。ハープとか細かい音がよく出ていてトータルなまとまりもあるし、大瀧さんのゴージャスでこだわっているところがとてもわかりやすい音ですね。

鈴木: いろんな楽器がはっきりと明瞭に出ていますね。

麻倉: SACDは楽器が立つというよりはトータルな世界が艶っぽいのですが、ハイレゾ版は細かい音がよく出ていて、特にバスドラの立ち方がしっかりしていてスネアの切れ味がとても生々しいですね。あとは音の粒子の輝きが違うというか、楽器同士の音が空気中で合わさっているような感じがします。ボーカルがゴージャスな楽器の音に負けないような音の立ち方があって、松田聖子のボーカルはさらにうまくなっているし、フレーズごとに音色を変えたり、ビブラートの微妙な使い方を変えてみたりなど、そうした細かい芸をしているのがとてもよくわかります。

 立体的に音楽が作られているというか、奥行き感があって音が立ってくるというのが感動ですよね。

鈴木: そうした部分を活かした音作りですね。

──「P・R・E・S・E・N・T」試聴

「P・R・E・S・E・N・T」2014年12月24日配信

麻倉: ノリがよくてキャッチーですね。

鈴木: 静かなホルンの音ではじまってからキャッチーなリズムになって、アルバムの1曲目らしい曲ですね。

麻倉: この曲はリズムをしっかりと刻んでいますよね。ベースが押してきているんですけど、低域を強調しすぎると雄大だけど切れがなくなりますよね。

鈴木: 低音の倍音をうまく調整すると、切れがよく奥行きもある音になります。

麻倉: なるほど。ボーカルもすごくナチュラルな感じで、特に弱い音というか子音の表現がうまいなと。

鈴木: ナチュラルなまま前に持ってきて生々しさを出していますね。明瞭度を高めていくような方向で音作りをしています。

麻倉: 最初のベースは、当時こういう音が流行っていたんでしょうね。しっかりとした安定感があって、切れがいいです。ギターのアコースティックぽい味わいもすごくいい。そして、弾んでいてビビッドな声が素晴らしいですよね。そそられるような声です。

 私はかつてビッグサクセスという雑誌の編集長をしていました。そこであまりに松田聖子の声が素晴らしいので専門家に記事を書いてもらったんですけど、「すごくセクシーなのだ」というんですよね。当時はあまり分からなかったのですが、特に母音に彼女の特徴が現れているのが今、すごくよくわかりました。ハイレゾだとそういう細かい表現まで聴き取れます。迫ってくるようにわかります。

──「Strawberry Time」試聴

「Strawberry Time」2015年2月25日配信

麻倉: これはデジタルからの変換ですか?

鈴木: そうですね。

麻倉: 全体的にちょっと固いですね。

鈴木: 音作りの方向性でもあるのですが、打ち込みというかシンセを使っているところが多いので、電気的な音などいろいろな音が融合しながらシャープな感じに、全体的にエッジが立った固いイメージになっています。

麻倉: 前の2曲と比べると、制作における考え方の違いとか技術革新とかまでわかります。前の2曲はナチュラルな感じでしたが、こちらは演出により独特の世界観を作っている感じがありますね。

ハイレゾ版の松田聖子 まとめ

麻倉: 今回のハイレゾ版ですが、ソニー時代の35タイトルの音源を使っています。2014年の12月からはじまって毎月5タイトルを発売ということは、35タイトルすべてが出てくるまでに7カ月ありますね。5タイトルをまとめて作業するのですか?

鈴木: 実作業は1日1タイトルか、もう少し行っています。アルバムをトータルで聴いて、そのあと1曲ずつ聴き込んで作って、それを繰り返す感じです。当時の音楽の素晴らしさをダイレクトに伝えたいという思いで取り組んでいます。

麻倉: アルバムの世界観などを今のマスタリングで強調することで、ハイレゾという新しい世界の中でアーティストをもう1回、活かせてますよね。新しいハイレゾの松田聖子の素晴らしさがどこにあるのか、わかったように思いました。実際に生を聴いていた当時よりも、今、ハイレゾによって真実の歌い方がわかり、さらにはそこからどのように成長して表現が変わっていくのかも知ることができる……。これはハイレゾの醍醐味のひとつですね。つまり過去の真実の再発見がハイレゾで得られるということなのですね。

●配信情報

WALKMAN公式ミュージックストアでもあるソニー・ミュージックエンタテインメントグループのレーベルゲートが運営する「mora」にて配信されているハイレゾ版の松田聖子の楽曲。2月27日現在、16のアルバムタイトル、180曲が配信されている(うち1タイトル、10曲はSEIKO名義)。
URL:http://mora.jp/artist/11318/h

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