ハイレゾの人気楽曲を選び、その再生品質を確かめる
と、ここまで述べておいて何なのだが、実はこの機種は、筆者とは別のレビューアーがすでにレビューを済ませている(関連記事)。同じことをしてもツマラナイので、今回はちょっと趣向を変えてみた。複数のジャンルの曲をチョイスして、このイヤフォンのキャラクターと得意ジャンルを探ってみるという、音質重視のレビューにしようと思う。
内容としては筆者が課題曲(ハイレゾ音源)を設定して試聴した後に、各イヤフォンのキャラクターに合いそうな曲を筆者のプレイリストの中から選んで、自由曲として聴いて楽しむというものだ。
課題曲は多くの人がイメージできる様に、e-onkyo storeの、2015年2月11日現在のヒットチャートを参考に、POPS/ROCK、JAZZ、CLASSIC、ANIMEの各ジャンルから1曲ずつ、次に挙げる4曲をチョイスした。
- 「Hotel California」(The Eagles)
- 「Waltz For Debby」(Bill Evans Trio)
- 「バルカローレ」(河合英里、ARIA The ANIMATION オリジナルサウンドトラック)
- 「真昼のトレヴィの泉」(佐渡裕指揮、HYOGO PAC ORCHESTRA)
この選曲に関してだが、ベストセラーとなっていてハイレゾを聞いている人の多くが耳にしていると思われる「Hotel California」「Waltz For Debby」の2曲と、新譜の中から全体のラインアップとのバランスを鑑みて「真昼のトレヴィの泉」「バルカローレ」の2曲を選択した。
ズッシリシャッキリ、でも音数が多いと甘さも垣間見える
前置きが長くなったが、音楽を聴いてみよう。
まずは「Hotel California」だ。
開始早々のイントロで、バックに流れるオルガンがアンビエントの役割を果たし、メランコリックな曲の雰囲気を演出した。澄んだ音色はこのイヤフォンの大きな特徴のひとつだ。曲が進むと表れるベースは、力強くてどっしりとした音である。リズムセクションはシンバルが鋭く、非常に快活でエネルギッシュだ。音楽の楽しみが演出されており、聴いていて心地良くなった。エレキギターのスクラッチでは、脳天に突き抜けるような高音がよく響いてシアワセだった。
気になった点を挙げると、まずはボーカルにはもうちょっとキレが欲しいという点である。低音部や高音部に対してボーカルにもごつきがあり、演奏に負けて埋もれ気味になる感じを受けた。それから元気な低音が気持ち暴れ気味だ。各音の分離性はそこそこなのだが、低音から中音にかけての音域が野暮ったく感じた。ボーカルのキレ不足もここに起因しているのだろう。
次に聴いたのは「Waltz For Debby」である。
この曲で一番感心したのはダブルベースがすごく近くに感じる事である。ドラムは程良い距離を感じるので、筆者が時々足を運ぶブルーノート東京でのライブ演奏を思い出した。もし1961年のヴィレッジヴァンガードにタイムスリップできたら、最前列のテーブルではこんな感じでビル・エヴァンスのピアノが聴こえたのだろう。
冒頭部のピアノとダブルベースの音だが、それぞれのキャラクターが離れ気味に聴こえたのには少々驚いた。ライブ録音なのでそんな事は絶対にあり得ないのだが、まるで別録りをしたかの様に、ピアノはしっとり、ベースはイキイキで妙なチグハグ感を感じた。演奏が進んでいくと、ウッドベースが弦を弾く時のスクラッチ音が潰れ気味なのが耳についた。もう少し繊細さが欲しいところである。それから音数が増えると微細信号が曖昧になる傾向が見られた。そのためピアノの存在感が若干薄くなり、物足りなさを感じてしまったので残念である。
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