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CROSS 2015で聞いた!失敗しない引き継ぎのための「金言」をどうぞ

正しい引き継ぎを異業種バトルで考える「引き継ぎ式年遷宮」

2015年02月10日 09時00分更新

文● 大谷イビサ/TECH.ASCII.jp

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1月29日に開催されたCROSS 2015で聴講したのが、伊勢神宮の式年遷宮にかけて正しい引き継ぎとはなにかを考える「引き継ぎ式年遷宮」。IT業界のみならず、製造業、役所、介護業界など、さまざまな業界での引き継ぎの実態と問題がつまぎらかにされたユニークなセッションをレポートする。

IT業界の引き継ぎで成功したためしがない?

 失敗する引き継ぎ・正しい引き継ぎを考えるパネルディスカッション「引き継ぎ式年遷宮」。参加したのはクラウドごった煮の冨田 順さんのモデレートの元、青森県庁の杉山智明さん、介護×ITコンビの竹下 康平さん(ビーブリッド)&飯塚 裕久さん(ケアワーク弥生)、サーバーワークスの舘岡 守さんになる。

 イントロを務めた冨田 順さんは20年ごとにすべての社殿を造り替え、神座を移す伊勢神宮の式年遷宮について説明。冨田さんは、「木造建築の技術を継承し、木を守るといった意味合いもあるが、なにより新たに清浄であることを求めるという神道の精神は、われわれのIT業界の引き継ぎにも通じる」と指摘する。

モデレートしにくいメンバーに悩みながらパネルを進める冨田 順さん

 IT業界の引き継ぎはドキュメントがメイン。IT業界の代表でもあるサーバーワークスの舘岡 守さんは「システムの目的や動きの仕様が書いてあり、詳細はスクリプトを見ろというのが多い。あとは口伝」と説明する。前任者の知識がきちんと継承され、システムが安定運用することが正しい引き継ぎである。

 しかし、引き継ぎが成功した例はあまりない。「前任者がいない、中途半端なドキュメント、動き続けるシステム、鳴りやまない電話、上司からの圧力」(舘岡さん)。実際、IT業界の人たちが多い聴衆に聞いても、引き継ぎに成功したという人は皆無。引き継ぎを失敗すると、システムが安定して動かなかったり、性能が出ないといった事態に発生する。

悩めるIT業界のエンジニア代表としてコメントするサーバーワークスの舘岡 守さん

 冨田さんにドキュメント主義について振られた竹下さんは、ドキュメントはあまり意味がないので、結局、前任者が書いたPerlやシェルスクリプトを開けることになると説明する。だが、スクリプトを見ても、引き継ぎがスムースに行くわけではない。

 竹下さんは「ある工場のスクリプトはコメントがアスキーアートだらけ。ヒマすぎて、コメントがアスキーアートで書かれている(笑)。しかも、Perlで工場系のスクリプト書いていた昔の人は、記号オンリーですべてを済ませようとする。だから、記号オンリー+アスキーアートで全然わからない」と自身の経験を吐露。しかも前任者がいなくなっての引き継ぎだったので、基本的に動機がネガティブ。「こんな状態では絶対に引き継ぎたくないので、なんとか新規案件やりたいなあと思っていた」と語る。

不動産業、製造業を経て、介護業界にたどり着いた竹下康平さん

人生で人生を引き継ぐ!介護業界の引き継ぎはポジティブ?

 不幸な引き継ぎを繰り返すIT業界や製造業、堅実な引き継ぎが必要な役所に対して、介護業界の引き継ぎはポジティブ。ケアワーク弥生の飯塚さんは、「事業の引き継ぎ」、「作業の引き継ぎ」、「老人の引き継ぎ」という3つについて会場を練り歩きながらトークを展開した。

 飯塚さんによると、認知症が発症してから亡くなるまでは統計的には13年程度になるという。「おむつを替えるだけではない。その人がその人らしく生きて、死んでいくまでがお仕事。つまり、13年に一度引き継ぎが起こる」(飯塚さん)。こういう介護業界の引き継ぎは、経験を経験で口伝していくような作業になる。「人生を人生で引き継ぐようなところがあり、何度も繰り返すと、自分に戻ってくるような感じ。非常にポジティブなもの」だという。

“飛び出すパワポ”として練り歩きスタイルでトークを炸裂させる飯塚さん

 介護業界における引き継ぎの失敗とは、やはりQoE(Quolity of Experience)の損失になる。飯塚さん曰く、介護や看護学、社会学は積み上げの演繹法ではなく、数多くの仮説で物事を進める帰納法的なアプローチを用いる。そのため介護での失敗のタネは、本人の意思を無視した仮説の誤りや思いこみが多い。その結果、本当はお茶飲みたい人に、コーラばかり飲ませてしまうことになるという。「結局、冷蔵庫に行けないから、介護状態にあるわけで、しかも介護士に言いにくいんです。わけわからん介護士がついたら、今から80歳まで朝・昼・晩ずーっとコーラを飲まされるんですよ」(飯塚さん)。一方で、成功している引き継ぎでは、介護士がコミュニケーション力を使って、ご老人の本来の欲求をすくい出し、これを次の看護師に申し送りすることだと言う。

(次ページ、青森県庁の杉山さんがプロの引き継ぎを披露)


 

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