世界展開を目論む企業にとって、世界を知る個人投資家の参加ほど心強いものはない。
イスラエルの投資家は、「起業家から転身する」、「グローバル企業を経て投資家になる」、「グローバル企業とスタートアップ企業を行き来して、企業を売却した後に投資家になる」など、さまざまである。
起業家から投資家へ転身した例を挙げると、M-systems(2006年、SanDiskが買収)の創業者でフラッシュメモリを発明したDov Moran氏、今では誰もが使うLINE、Facebook Messengerなど、インスタントメッセンジャーの元祖ICQ(1998年当時AOL社が買収)の創業者、Yair Goldfinger氏などがいる。両氏は、現在投資家としてイスラエルのスタートアップを支援する立場にいる。
さて、今回はグローバル企業から投資家へ転身したMoshe Lichtman氏へインタビューする機会に恵まれた。Lichtman氏は、以前はMicrosoft Israel R&D CenterのPresidentを務める傍ら、Microsoft Ventures AcceleratorのMentorを務めていた。現在は、イスラエルの成熟したテックカンパニーへ投資するテクノロジープライベートエクイティファンドのひとつ、Israel Growth Partnersの共同創業者でマネジングディレクターである。
そのファンドの活動とは別に、Lichtman氏は毎年300〜400のスタートアップを見ており、毎年、4社、5社へ投資している。そのひとつに世界展開を着々と進めるSimilar Webがある。
Similar Webは、日本展開を行うギャプライズ(ClickTale、Yotpoなどの日本展開も行っている)によると、定期的に世界中の5000万以上のデバイスを追跡するプラットフォームを構築。ブラウザ上の操作画面にドメインURLを入力するだけで、競合他社のWebサイトがどんな流入元からどれだけのトラフィックを集めているか、Web上でどのような広告を出しているか、どのようなワードで検索されているか等のデータを瞬時に解析している。
Lichtman氏は、Similar Webへ投資した経緯について
「2011年、創業者兼CEOのOr Offer氏とお会いした際、博士号や軍のトップインテリジェンス部隊の卒業生、数学者、コンピューターサイエンティストがおり、技術力が高いことは勿論、世界で競争力のある分析プラットフォームを構築するビジョンを持っていたことである」
と、さらになぜシード投資をしているのか? の質問には
「私の主な関心は、自身の経験を共有し、次世代のイノベーションの支援、起業家が彼ら自身の可能性を現実化させ、素晴らしい価値、消費者へよりよい生活を届け、グローバルにビジネスすることである」
と答えた。
今回のインタビューを通して印象的だったことをあげると下記の3つに集約される。
- 起業家、投資家双方が、世界展開をするためのビジョンを持っていること。
- 起業家だけでなく、投資家自身が企業の世界展開を手伝えるということ。
- ファンドを運営しているにも関わらず個人投資家としても活動できるイスラエルの柔軟な制度。
全てのイスラエル起業家、投資家がそうだとは必ずしも言い切れないが、他の国に比べ、こうした起業家、投資家の厚みがイスラエルをスタートアップ大国へ押し上げているかもしない。
筆者紹介──加藤スティーブ

イスラエルの尖った技術に着目して、2006年にイスラエル初訪問。2009年にISRATECHを設立し、毎月40~60社のスタートアップが生まれるイスラエル企業の情報を日本へ発信し続ける。2012年にはイスラエル国内にも拠点を設立。イスラエルのイノベーションを日本へ取り込むための活動に着手する。ダイヤモンドオンラインにて「サムスンは既に10年前に進出! 発明大国イスラエルの頭脳を生かせ」を連載。

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