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5分でわかる時事ソーシャル&コンテンツ 第3回

課金がない、単行本も自前で作らないcomicoが好調な理由

「最小限の編集機能と人の集まる場」がセルフパブリッシングの鍵

2015年02月04日 09時00分更新

文● ASCII.jp編集部

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編集者は新しい形の編集に対応できるのか?

―― この仕組みが着々と成功を積み重ねていることに衝撃を受けました。このまま編集者はお払い箱行きになってしまうのでしょうか?

まつもと 一概にお払い箱というわけではなく、「あなたは新しい形の編集に対応できますか?」という問いを突き付けられているんだと思います。

 イメージとしてはコルクの佐渡島庸平さんを連想するとわかりやすいのでは。担当作家をマネジメントする会社を設立し、講談社からスピンアウトしましたよね。もちろん喧嘩別れしたわけじゃなくて、作家のエージェントとして講談社とも協力しながら、水平的に事業を組み上げていくためです。

 でもこれは理屈の上では、本当は出版社内でもやろうと思えばできることかもしれません。

 僕自身も各社の編集者の方と話すと、ネットが大事なのはわかってるし、新しい作り方をしなくちゃいけないのもわかる。編集者はプロデューサー的に動かなくちゃいけないこともわかっている。そしてそれに反対する人はいない。

 じゃあ、なぜできないかといえば「予算がありません」とか「組織の決済フロー上、無理」と言われてしまうから。つまり、予算を差配し組織を設計する立場の人たちも新しい環境に対応する必要があるんです。

 あるいは、(comicoのようなサービスと)割り切ってがっちり組んでしまうという手もあると思うんですよ。

 紙でパッケージして書店に流していくというのは重要な役割だし、まだ市場の大きな部分はそちらで占められているのも事実なので。そこに特化し電子とかネットの部分は外部のパートナーに任せるんだ、という方法も全然ありです。何もしないのは論外ですが、どっちつかずな戦略も悪手だと思います。

 場合によっては、余力がある出版社であればIT部門を任せられる会社を吸収合併したり、その逆(IT企業による出版社の買収)もありうるでしょう。

セルフパブリッシングに必要なのは
最小限の編集機能と人の集まる場

―― そもそもセルフパブリッシングを数回にわたって取り上げたいと思った理由ってなんですか?

まつもと 実際のところは、僕自身も固定観念に縛られていたんです。

 鈴木みそさんが1000万円売り上げたというニュースはあったけれども、それは商業誌で描いていて、かつ一旦商業誌に掲載されたものを電子出版するという技だったわけですよね。

 だから、これからスタートする著者にとっては誰もがマネできるわけではない。その道を登れるのは限られた人です。そこの矛盾というか、その道に乗れない人はどうすればいいのか考えていたんです。

 でも、最初に登場していただいた野田文七さんはまったく逆で「その勝負には乗らない」と宣言して同人で食べているわけですよね。comicoでも、同人活動の延長でcomicoにチャレンジして公式作品の地位を得た人もいる。

セルフパブリッシングの現状を追うために、東方Projectの二次創作を発表し続けている野田文七さんにお話を伺った

 誰もが鈴木みそさんにはなれないけれど、食っていく道筋は他にもできつつある。作り手にとってはチャンスが広がった様子だと。では、その具体例を見たいということで取材を始めたわけです。

 じつは、野田さんのときはまだ『とはいえ、このような人はまだレアケースなのではないだろうか?』と思いながら伺っていたのですが、インディーズ作家のための雑誌を作っている鷹野凌さん、そしてE★エブリスタとcomicoの話を聞くにつれ、「新しい門戸が開かれているんだな」と気付かされたんです。

 まったくの独力だとしんどいけれども、最小限の編集機能とお客さんがすでに集まっている場があれば、そこで坂道を登っていく光が見えてくる。これがあるとないでは大違いだと。

 セルフパブリッシングと、新興電子出版プラットフォームとの共通項は、コミュニティの存在の可視化と、書き手と読み手が気持ちの良いコミュニケーションが取れる環境の整備にあります。

 映像や音楽の世界では当たり前の法則が、出版にも押し寄せてきました。書き手や読み手の多くはそれをすでに楽しんでいます。従来の出版業界がその変化を理解して、痛みを伴う改革ができるのか、それが問われている段階だと思います。

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