日常の不便が少ない国から
海外に不便を取りに行く!?
若者が世界に目を向けなくなった、あるいは内向きになった、という話が良く聞かれるようになりました。筆者はこの3年間を過ごしてきて、それもそのはず、と内向きになる彼らに同意できます。
海外が特に好きな世代は、1980年生まれの筆者よりも1世代以上は上の方々に多いように感じています。おそらく彼らが見ていた世界と、筆者よりも若い世代が見ている世界では、その様相は大きく違うのでしょう。
たとえば20年前は、おそらく日本よりも米国の方が魅力的なことは多かったかもしれません。ちょうどドットコムバブルのタイミングでもありましたが、それ以上に、欧米に出ればスゴイものが見られる、スゴイ人に出会えるという考えは事実だったと考えられます。
サンフランシスコ、シリコンバレーでは現在も膨大な投資資本で新しいビジネスが育まれ続けています。この点は、正直日本からも活用すべき、素晴らしいエコシステムを担っていると思います。
特に昨今はApple/Googleがモバイルプラットホームを保持し、Facebook/Twitterがソーシャルメディアを牛耳っている現状を考えると、米国西海岸はテクノロジーの世界全体のスタンダードを作っている場所と言っても過言ではないでしょう。
筆者がカリフォルニアに引っ越してきて、ローカルでの議論やスタンダードの決定が、グローバルに直結して波及するというメカニズムを発見し、とても驚いたことがありました。
しかし人々の生活や特にモバイル文化の面では、いつの間にか日本が追い越し、10年ほどのアドバンテージをいまだ維持しているように感じてなりません。この話は、前述の「日常の不便が少ない国」という日本の見方と符合します。
日常的に不便に触れていて、解決方法を探そうという意識を忘れると、どうやって「問題だ」と自覚するか、はたまたどうやってそれを解決するか、という思考が薄れてしまいます。おそらく2011年に米国に渡ってきた瞬間まで、筆者もそういう身近な問題発見・解決という視点が劣化していたかもしれません。
もちろん、必要ない器官が退化してすっきりとするのも、進化の過程ととらえれば、悪いことではありません。ただ、その一方で、まったく違う環境に置かれて右往左往しながら、1つずつ人に話を聞いて解決していくというサバイバルは、良い経験だったと感じています。
街の人に話を聞いて情報を集める……ドラクエ感覚も
もう少し、筆者の身近な経験の話を、最後にしておきます。
アメリカでは、時折自分がドラクエのキャラクターになったような瞬間を感じることがありました。正直なところ、30年間まったく英語に親しんでいなかったので、無理矢理英語しか使えない環境に生活の拠点を移したのですが、新しい表現を日々獲得していく毎日です。
基本的に、スターバックスを日本で使いこなしていれば、「ダブルトールノーファットラテ」というようなスタバコマンドは利用できます。しかしその次に、名前を聞かれたり、普通のドリップコーヒーを頼んだときは「Room for milk?」と聞かれる、という慣れないことが発生し、最初に戸惑うことになります。
Roomについては、字面にしてみると、カップの上までコーヒーを注ぐか、ミルク用にスペースを空けておくかを聞いているのだとわかりますが、まさかカップのミルクのための部分を「部屋」と表現するとは知りませんでした。こうして街の人と話したり買い物をするたびに、使える表現が増えていきます。
ウェブを見たり、役所の窓口で相談したりして情報を集め、手続きを進めていく。日本で暮らしていると、街の人と話すことが情報源になるというのが本当のことだ、ということも知りませんでした。ただ、何か興味を持っていたり、やりたいことを主張すると、そこに対する答えを見つけやすくなる、という経験もしています。
もう少しドラクエのコンテクストを続けるなら、何が経験知としてカウントし、どうなるとレベルが上がるのか。武器と防具は何か。仲間をどう見つけるかといった話が続きますが、ここから先はまた別の機会に。
もし何か質問などがありましたら、Twitter(@taromatsumura)やGoogle+(+TaroMatsumura)などにお寄せくださいませ。
筆者紹介――松村太郎
1980年生まれ。ジャーナリスト・著者。慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)。またビジネス・ブレークスルー大学で教鞭を執る。米国カリフォルニア州バークレーに拠点を移し、モバイル・ソーシャルのテクノロジーとライフスタイルについて取材活動をする傍ら、キャスタリア株式会社で、「ソーシャルラーニング」のプラットフォーム開発を行なっている。
公式ブログ TAROSITE.NET
Twitterアカウント @taromatsumura
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