広帯域なフルレンジサウンドが魅力
さて、TITAN 1の音ですが、これは相当に面白いです。一聴してわかるのは、ダイナミック型特有の低域再生能力に加えて、チタンの高域側のレスポンスを上げ、広帯域再生を訴求したチューニングになっているということです。
言ってみれば、中低域の得意なダイナミック型と、高域の得意なバランスド・アーマチュア型ドライバーをかけあわせたハイブリッド型のような広帯域感があリ、かつ上下の帯域のつながりに不自然さがない。これはフルレンジユニット一発の構成なので当然といえば当然ですが、それが美点と言えます。
もちろんチタンと従来型の樹脂製振動板の差を同じハウジングで確認したわけではないので、この特性が振動板の素材固有のものなのか、ハウジングの構造その他のチューニングによって得られたものなのかは判断できません。
ただ、通常のダイナミック型一発のイヤフォンに比べて高域がよく出ているのは確かで、それが他のイヤフォンにはないキャラクターになっています。それと同時に、低い周波数から十分なレスポンスを持っているにも関わらず立ち上がりや収束が速いという、従来のダイナミック型にない低域の表現にも優越点を見いだせます。
今までにないキャラクターになじめるか否か
当然ながらウイークポイントもあります。まず遮音性です。音質的には他の密閉カナル型のように内側へ垂れ込んでこない開放的な音場感が魅力ですが、iPhoneのオマケのインイヤー型に比べれば随分マシとはいえ、音漏れはします。だから利用シーンを選ぶこと。
また、音質的には今までにないハードエッジなキャラクターが魅力ですが、音源の質やリスナーの好みによっては合わない場合もあるでしょう。私個人の感覚で言えば、元気なときには低域のスピード感のおかげで相当にアガる音なのですが、体調の良くない日には、2~4kHzくらいの帯域に多少のラフさを感じて、少々うるさく思うこともあります。
そして価格。実売で1万円台半ばという価格は決して高いものではありませんが、DUNU-TOPSOUNDには「DN-1000」というハイブリッド型の優等生がいます。こちらは耳道に対して垂直に装着するカナル型で、遮音性もあり音漏れもほとんどしません。装着安定性で若干劣るものの、TITAN 1に比べるとオールマイティーな音質です。あと5、6000円ほど余計に出せば、それも選択肢に入ってくるわけです。
そうした音の違いは、ぜひ店頭で聴いて確かめてみてください。どれも似たり寄ったりになりがちなこの価格帯の製品にあって、キャラクターが明確に違うので、あまり迷わずに選べるかもしれませんが、その違いの面白さにハマって、そのままイヤフォン沼へ落ちていくのもアリです。
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著者紹介――四本 淑三(よつもと としみ)
1963年生れ。フリーライター。武蔵野美術大学デザイン情報学科特別講師。新しい音楽は新しい技術が連れてくるという信条のもと、テクノロジーと音楽の関係をフォロー。趣味は自転車とウクレレとエスプレッソ