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サラウンドに注力した新レーベル「HD Impression」の阿部代表に聴く

教会で声が降り注ぐ、360度の音に包まれる圧巻の音楽体験

2015年01月25日 12時00分更新

文● 編集部

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半球状に広がるサウンドステージで自然な音をつながりを

── 音作りでこだわられているポイントは?

阿部 「会社を立ち上げた理由は、サラウンドをメイン、ステレオの音源もサラウンドを考えた上でのステレオにフォーカスする音源を制作したいと考えたためです。では、サラウンドで何が一番要求されるかというと、“空間”つまり“360度の定位”がある中に楽器をうまく分散させて、包まれるように音をつなげることです。そのためには、立体的に音を捉える必要があります。その立体感をどう再現するかに気を使っていますね」

水平方向の360度から音を感じられるというのはもちろんだが、サラウンドでは上下方向の音の広がりも感じられる。

阿部 「楽器の演奏者が見えるような。つまり楽器の音だけではなく、演奏者が弾いていて、楽器の大きさなども表現できればと考えています」

── 音楽専用のSACDマルチの再生でクラシックなどを聴くと“音の動き”というよりは“音場の広さ”や“空間の再現”を重視しているのだなと感じます。複数のスピーカーを使っているが、それを意識させず、後方のスピーカーの音は耳を近づけてやっと鳴っているとわかるほど小さかったりしますね。

阿部 「立体的な音を録るのはものすごく難しいことです。ステレオは平面といっては語弊があるのですが、サラウンドでは現場で聴いていた音を思い出すんですね。その再現性がより高まるという点です」

── 実際に収録に立ち会われていればなおさらですよね。

阿部 「だから先ほどの“サラウンド”だけれども“サラウンドを感じさせない”というのは大前提になりますよね。映画でも見ている映像と一緒に動くからこそ違和感を感じないのです。そこが分離するから違和感につながるのです。日常生活で頭上に飛行機が飛んでいても、飛行機が動いていると感じても音が動いているという意識はないですよね。そういう真実味のある音作りを目指しているんです。擬似的であっても違和感がなく生理的にいやだと思わせない、気持ちよく音に包まれる感覚です」

── 音響機器も、単に音の輪郭を緻密に表現するだけでなく、その空間をどう表現していくかが重要視されていますよね。自然に空間になじむというか。

阿部 「そうですね。ステレオの再生では音が前方で定位して、その奥行きを表現していきますよね。サラウンドに関しては360度の半球体の中で上方にまで音が定位してくるので、よりいっそう高い要求にこたえる必要がありますね」

── そのために各チャンネルの調整も必須になるのでしょうか?

阿部 「基本的には調整しません。設定はいろいろありますが、基本的にはフラットです。(DAWなどで音を動かす処理については)違和感なく気持ちいいと感じられるなら問題はないですし、音の芸術といったアプローチで遊んでみるというのもあり得ると思いますね。ただし僕は、演奏者がいて、それを自分で聴いたときの気持ちがよみがえるとか、音ではない部分が感じられるように録りたいと考えているんです」

── 気配だったり。

阿部 「音の仕事をしていると、歌い手が1コーラス目と2コーラス目で違うことを考えているなと分かることがあります。見ているわけではないけれど。そういう音自体の変化だけではなく、感情の変化なども表現したいなと思っているんです」

── サラウンドというと作られた音を想像していましたが、実際は演奏者に近づき、その思いを共感できるようなリアルで自然な体験でした。ありがとうございました!

各音源の聴きどころ

みくりやクワイア/La Preghiera

教会での収録。1曲目『ピエ イエズ』は、ステレオ再生でも良好な定位。スピーカーが消える感覚を味わえるが、サラウンドではより演奏者に近づき(ワンポイントマイクは距離3mの位置)、前方の奥行きだけでなく、反響が左右そして上方へと豊かに広がり、そして響きが高い天井を目指し、上へ上へと志向していくさまを実感できる。


植草ひろみ・早川りさこ/Song of the Heart

チェロとハープによる『白鳥』を聴く。同じ場所で実施されたアーチストのチェック時、「自分の弾いた音を、聴くことはできないが、その感じが伝わる」という感想が出た。会場の残響を耳で聞き、音量や弓の切り返しをの量を調整する。そんな演奏時に考えていたことを、空間を緻密に描くサラウンドでは思い出すのだという。


高木里代子/Salone

『Open the Eyes』はジャズアレンジのピアノソロ曲。収録したサローネ・フォンタナは、キャパ50名ほどの小さなホールだが、木製の壁で囲まれた音の反射や吸音が適度で、独特の趣があるという。ライブ録音で、聴衆の衣擦れの音やちょっとした物音が時折聞こえるが、これがまた鮮明で演奏の場に参加しているようなリアルさを感じる。


たなかりか/Flowers for Blossom

ほかの3つのアルバムとは異なり、スタジオで録音したマルチトラックの音源を利用したもの。別々に録音された楽器やボーカルを、収録した場の雰囲気を生かしつつ、ひとつひとつ混ぜ合わせていく作業が必要になるという。擬似的な表現だが、生々しさを感じる。サラウンド再生で楽曲の自然さ、心地よさを別の視点で実感できる。

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