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自動化が進む製造現場でNECはなぜ「人」にフォーカスするのか?

10万通りのサーバーを良品として作り続ける甲府のものづくり

2015年02月10日 06時05分更新

文● 大谷イビサ/TECH.ASCII.jp 写真●曽根田元

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細かい無駄とり・効率性を積み重ねて今がある

 見学して感心したのは、やはり徹底した無駄とり・効率性の追求があらゆるところに詰め込まれている点だ。

 たとえば、組み立てで使った部品箱の返却。甲府事業所では、空になった部品箱の返却をワンタッチでできるようになっている。「3秒で済む返却も、1台あたり10箱やったら30秒。仮に今日100台作るとした場合、箱の返却だけで合算50分の無駄なんです」(中西氏)。その他、必要な個数のネジの供給やラベルの剥離まで機械で自動化している。しかもこれらをすべて自作しているというのが驚き。細かい無駄とり・効率化の積み重ねが、高いQCDを実現しているのだと思い知らされる。「18年前は自作した機械なんて1個もありませんでした。必要に迫られ、作っていったらこうなった」と渡邉氏は振り返る。

 このカイゼンの取り組みは当然、コストにも影響している。製造業がグローバル化する中、日本のものづくりは世界との勝負になっている。NECプラットフォームズ 甲府生産統括部長 宮永明氏は「生産性向上の指標はつねに中国や新興国において、キャッチアップを目指しています」と語る。

NECプラットフォームズ 甲府生産統括部長 宮永明氏

 人件費や土地代など普通に考えて、コスト面で国内生産のメリットを見出すのは難しいと思われる。しかし、ITを駆使したサプライチェーン、日々のカイゼンによって最適化された甲府事業所は、グローバルで見ても高い競争力を持つという。中西氏は、「中国での人件費が徐々に上昇しつつある中、製品単体で見た場合のラインオペレーションコストは、負けているとは思っていません」と語る。そして、なにより納期や品質面で高い優位性を持っており、遅配や障害などを考えれば、結局コスト面に跳ね返ってくるという。

床に貼られたビニールテープは年々短くなっているラインの長さを表わしている。40mからなんと1/3の12mへ。まさにカイゼンの歩みを刻んでいる

甲府のものづくりは400年前のあのスローガンに帰る?

 ITベンダーの製造現場ということで、物流やサプライチェーンなど全体を網羅するシステム面に注目が集まるが、最終的にQCDを担保しているのはやはり「人」 だ。「近い未来、知的労働はコンピューターに、肉体労働はロボットに取って代わられる」とさえ言われているが、すべて違うモノを作るという甲府事業所では、むしろ人へのフォーカスに戻っているようだ。

 「実は1990年代の終わりくらい、NECは完全オートメーションの無人工場を目指した時期がありました。しかし、その後商品のバリエーションが増え、同じモノを大量に作るというニーズから変化しています」(渡邉氏)。そのため、自動化できるところは自動化し、良品条件を維持するための保全や変動対応には絶対的に人間が必要になるというのが結論となった。

「1台1台異なる製品を作る必要が出てきたため、かえって人と向き合うようになりました」(渡邉氏)

 そして、企業はそのための器として機能すべきというのが、渡邉氏の弁だ。「人間は考えてくれるんです。よりよくなろうと。平日1日8時間は拘束されるわけだから、やはり仕事で人間を成長させていきたいと思っています」(渡邉氏)。

 こうした思想の元、甲府事業所では現場でのカイゼン活動はもちろんのこと、幹部が現場を巡回して、カイゼンへの取り組みについて意見交換をしたり、他の拠点との横串でのノウハウ共有や成果報告会なども逐一行なっている。NECプラットフォームズ 甲府生産統括部長 宮永明氏は「機械に合わせた作業ではなく、自分たちの作業に合わせて機械を使いこなしていく。だから、オペレーターも単に製造するだけではなく、ラインをどのように改良すればよいか、設備開発ができる人材開発のプログラムも組んでいます」とのこと。働かされるのではなく、自ら働き、「革新の風土」を作りだせる環境になっているわけだ。

 ものづくりは人作りというのは、甲府事業所の大きなテーマだ。「経営者だけでは工場は成立しない。1台1台の製品を実際に作る人たちの意見を経営側が咀嚼しなければ、自らがカイゼンしていこうという環境は作れない」と渡邉氏は語る。「人の成長なくして、会社が伸びることはない」という甲府事業所のポリシーは、くしくも400年以上も前に武田信玄が掲げた「人は石垣 人は城 人は堀」のスローガンと同じ。そんな「ものづくりの本質」が甲府事業所には今も息づいている。

(提供:NEC)

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