【前編】『楽園追放』プロデューサー野口光一氏インタビュー
「40代で負けたら2度目はない」――『楽園追放』は勝つためのフィルム
2015年02月07日 15時00分更新
水島精二監督と話し合い
市場とコストも鑑みて「セルルック」を選択
野口 どういうことかと言えば、普通のキャリアの積み方ならば、若い頃からアシスタントプロデューサーを経験した上で、満を持して30代でプロデューサーになるのですが、僕は40代でCGクリエイターからいきなりプロデューサーに転身したという事情があるからです。
同業の人たちからも「失敗を経験するのは30代。40代はやっぱり結果を出していかないと」と言われました。結果を出す――つまり興行的に数字をとることですよね。
そこから本当に、映画で勝つためにどうするかを四六時中考えることになりました。
―― 映画を大勢のお客さんに観てもらうために、どんな方針を立てましたか?
野口 大人向けのSFアニメで勝つためには、やはり20代、30代の男性ファンを獲得しなければと思いました。そこで、3DCGのテクスチャーも「リアルルック」ではなく、これまでのアニメに近い「セルルック」にしたんです。
本来なら僕も実写の人なので、リアル系に興味があったんですけど。
―― 企画されていた頃ですと、3DCG映画と言えばリアルルックが主流でしたよね。セルルックにするのは大きな決断だったと思うのですが。「映画で勝つ」ためにセルルックにしたと。
野口 はい。日本のアニメファンに受け入れてもらうためには、セルルックだろうと。
―― アメリカではリアルルックが支持されるのに対して、日本ではセルに近いものが支持されるのはなぜだと思いますか?
野口 非常に安易な言い方をすると、みんな漫画を見慣れているのでフラットな絵が好きなんだなと。当時のPIXARやディズニーの3DCG作品は、やっぱりそんなに(アメリカと比べて観客が)入らないというのもあって、2Dという市場はすごいなと思っていたんですよ。
監督が水島精二さん(『鋼の錬金術師』『機動戦士ガンダム00』監督など)に決まる前は“リアルルックで輪郭線付き”という選択肢も考えていたのですが、水島監督と話した結果、現在の日本のアニメ市場ではセルルックだろうと。
あと、セルルックのほうが安く作れるのです。リアルルックだと「ライティングしなきゃ、背景も作らねば……」となって結局、背景を全部モデリングしなければいけないので非常に高くついてしいます。
ですからプロデューサーとしても、コスト面と市場を考えたときに、セルルックでやるしかないと決めました。
楽園追放が「80年代のOVAテイスト(演出・京田氏)」な理由は
OVA制作者たちがハマった70年代実写SF映画を意識しているから
―― セルルックに決めて、そこから「メカと美少女」というモチーフを使って、アニメファンに向かって直球ど真ん中で勝負されたのですね。「メカと美少女」という、80年代OVAからの文脈は意識されましたか。
野口 今回、演出をお願いした京田知己さん(『交響詩篇エウレカセブン』監督など)も、楽園追放を「80年代のOVAのテイスト」と仰っているのですが、僕はそこまで意識はしてなかったです。
企画のときに僕が意識したのは、1970~80年代初頭のハリウッドの実写SF映画ですね。どちらかというと、日本のクリエイターたちがそれらのSF映画に影響を受けて作られたのが80年代OVAだったのでしょう。
1970年代には、ちょっと面倒くさくてメッセージ性の強いSF映画がたくさんありました。僕はディープなマニアではないのですが、子どもの頃からそういったSF映画を観て育ちまして。
たとえば『ブレードランナー』(1982年)は日本でもすごく支持されたのですが、面白いのは、僕らみんな、この映画が何を言いたいのかわかっていなかった。「結局、あいつはレプリカント(人造人間)なの?」みたいな。そして、最後まで観てもよくわからない(一同笑い)。
楽園追放も、(メッセージ性の強い)テーマを1個投げるような映画になればいいなと思っていました。
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(次ページでは、「アンジェラのお尻は水島監督の発案だった!」)
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