【前編】『楽園追放』プロデューサー野口光一氏インタビュー
「40代で負けたら2度目はない」――『楽園追放』は勝つためのフィルム
2015年02月07日 15時00分更新
長期プロジェクトのモチベーションを保つために
軸だけは絶対にずらしてはいけない
―― オリジナル、SF、3DCGでヒットしたのも、アニプレックスやクリエイター個々人が持っている萌えや深夜アニメのノウハウを取り入れているところがあったからなのですね。
野口 ただ、それだけではお客さんに届かなかったかもしれません。やっぱり、最初に設定したテーマを軸として「これは変えない!」ということを貫き通したからだと僕は思います。
……作品を作ることになったとき、先輩に言われたんです。
「ひとつテーマを決めたほうがいいよ。そうしないと、途中で『なぜこのフィルムを作っているんだろう?』となって、軸がブレてしまうから」と。
映画は3年とか5年とかかかるので完成することのほうが少なくて。というのも、企画が進むにつれて「こうしたほうがいいのでは?」と横やりがどんどん入ってきて、あっちからやあやあ、こっちからやあやあ言われているうちに、芯が折れてフィルムがだめになっちゃう。
つまり、だんだん現場が『何を作りたいんだっけ? 会社の売り上げのためだったかな? 誰がこのフィルムを作りたいの?』となってきて、モチベーションが保ちきれずに企画が立ち消えになってしまうということなんです。
―― それは、あらゆるプロジェクトで起こり得ることですね。
野口 軸だけは絶対にずらしてはいけない。僕の場合、その軸は「人間の未来像を描くというテーマ」でした。
僕はSFというジャンルを使って、人間の未来像を観てみたい、お客さんにメッセージを届けたい、CGで新しい表現をやりたい。そのためには今、スタッフ(人)が持っている技術や知恵を駆使することが必要で、そこから新しいものが生まれてくるはずだと。
だから貫き通す。SFは変えない。CGも変えない。これまで「当たらない」と言われたものでもその軸は貫き通す。
物語のなかで言えば、アンジェラと相棒になるディンゴがそうですね。人類の多くは滅びかけた地球を捨てて、“楽園”と呼ばれる電脳空間ディーヴァに移住していますが、ディンゴはあえて楽園には行かず、地球に住み続けています。
そういうものが、変えてはならない軸なのです。
じつは座組みも異例だった『楽園追放』
社内の了解を取るべく野口プロデューサーは奔走する
作品作りは軌道に乗ったが、プロデューサーの仕事はそれだけに留まらない。今度は、大人向けのSFアニメを20~30代男性アニメファンに届けるための仕組み作りが待っていた。
野口氏は、楽園追放を想定ファン層に届けるため、劇場宣伝・配給 ティ・ジョイ、パッケージ宣伝・BD販売 アニプレックスという選択肢を選び、見事結果を出す。しかしこの座組みは、それらの機能をすでに持ち合わせている東映アニメーションとしては異例のことだった。つまり、勝つためには会社の壁を乗り越える必要があったわけだ。
“40代のVFXスーパーバイザーが突如プロデューサーになって勝つことを求められた”という野口氏の体験は、総合職とは無縁のスペシャリストがなぜか部長に昇進した挙句、予算達成を厳命されたようなもの。
野口氏はいかにして、業界最大手の社内を納得させつつ、異例のルール変更を勝ち取ったのか。続きは後編で。
<後編はこちら>
著者紹介:渡辺由美子(わたなべ・ゆみこ)
1967年、愛知県生まれ。椙山女学園大学を卒業後、映画会社勤務を経てフリーライターに。アニメをフィールドにするカルチャー系ライターで、作品と受け手の関係に焦点を当てた記事を書く。著書に『ワタシの夫は理系クン』(NTT出版)ほか。
連載に「渡辺由美子のアニメライターの仕事術」(アニメ!アニメ!)、「アニメリコメンド」「妄想!ふ女子ワールド」(Febri)、「アニメから見る時代の欲望」(日経ビジネスオンライン)ほか。
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