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最新ハイエンドオーディオ、本当のところ 第9回

充実してきた単品ヘッドフォンアンプの実力を探る

本格派USB DACのバランス駆動で、音の世界に浸る (7/7)

2014年12月29日 09時00分更新

文● 鳥居一豊

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試聴を終えて

  • HD800とHDVD800の組み合わせは完璧!!
  • 音の厚みやパワーならパイオニア
  • 対応力の広さならOPPO

 正直なところ、HD800とHDVD800のバランス駆動の音は強烈なインパクトだった。期待以上の音に驚かされたし、こういう音をスピーカーから聴きたいという遠大な目標まで出来てしまった。その意味で、もしもこの3モデルで一番を決めるならばHDVD800(とHD800の組み合わせ)ということになる。

 だが、趣味のオーディオとして使うだけでなく、仕事上さまざまな機器と組み合わせて使うことも多い僕の場合、対応の幅の広さも必要だ。HD800などのゼンハイザーユーザーならは最高だが、その他のヘッドフォンとの組み合わせでは脇役に徹して相方の持ち味を活かしてくれるOPPOのHA-1の方が優れているとも思える。さまざまなヘッドフォンを聴き比べるときに使うリファレンスのヘッドフォンアンプとしてならば、僕はHA-1を選ぶ。ヘッドフォンユーザーにはたくさんのヘッドフォンを使い分けている人も少なくないと思うが、そういう人にもおすすめだ。

 パイオニアのU-05は、クラシックならばワーグナーのような大編成でドラマチックな曲を迫力たっぷりに聴きたい人、ロックを熱気たっぷりに、ジャズは汗臭いくらいグルーヴィーに味わいたい人に向く。好きな音楽の傾向は人それぞれだが、音楽を元気よく、生き生きと聴きたい人にはぴったりだ。そして、スピーカー再生でのドライブ感のある音色と、しっかりとステージの広がりなどの音場感が得られたのも特筆しておきたい。

ハイエンドにふさわしく、頼りになる存在

 今回聴いた3モデルは、いずれもそれなりに高価なモデルではあるが、それにふさわしい音だった。屋外でハイレゾ音源の高品質な音を手軽に聴くというのも魅力的ではあるが、自室でじっくりと音楽を聴きたい人にとって、据え置き型の持つ音の実力は頼りになるだろう。

 なんと言っても、パソコンを使った音楽再生のスタイルにおいて、そのクオリティのキーとなるのがUSB DACであるということを改めて実感できた。今すぐは無理でもこうしたモデルを手に入れて、聴き慣れた音楽のあまりの変化に言葉を失ったり、子供のようにはしゃいでしまったりという、オーディオ再生の喜びを体験してほしい。

編集者が垣間見た、超高級USB DACの世界

 現在ハイエンド市場のDAC製品を席巻するのが、ESS Technology社のDACチップである。記事内でもOPPOの「HA-1」など同社製チップを採用している製品が数多い。ここで紹介する「INVICTA」「e20 mk3」は、ともにカナダに本拠を置く企業が開発し、ESS Technology社の最上位DACチップ「ES9018」を独自の方法で使いこなして、ハイクオリティーのサウンドを実現している点に特徴がある。

INVICTA──驚くほどコンパクトで比類ないサウンドを持つ

 まずはINVICTA。Resonessence Labsは、ESS Technologyで運用責任者を担当していたMark Mallinson氏主宰のブランド。Sabreシリーズの設計において中心的な役割を果たした人々がメンバーに加わっている。「INVICTA」はその最初の製品で、ESSのDACを知り尽くした開発陣がそのポテンシャルを最大限に引き出せる機器として設計したものとなっている。

INVICTA。片手でもてるほどコンパクトで軽い。価格は税別61万8000円と高価だが、それも納得のハイクオリティーなサウンドに驚嘆する。

 DACチップはヘッドフォン出力用とライン出力用に別個に用意。各チャンネルをパラレル駆動させて、高いS/N比とダイナミックレンジを得ている。また7種類ものデジタルフィルターを持っており、こういったところからもESS DACに対する深い理解がある点がにじんでる。各フィルターによる音の変化はかなり明確で、それを使いこなすだけでも使いがいがあるというもの。

 その音は圧倒的なワイドレンジで、音の立ち上がりの速さ、明瞭さなど、高級クラスのUSB DACと比べても驚くほど高音質。フォーカスがぴったりとあって、一皮も二皮も向けたような明瞭さがあり、ESS DACの持つポテンシャルを改めて実感する。しかもこのサイズとこの軽さの筐体で実現してしまうのだから感服せざるを得ない。

日本語表示にも対応

 非常にコンパクトな本体だが、豊富なデジタル入力端子を装備し、XLRアナログ出力端子なども装備する。SDカードからの直接再生も可能で、スタジオユースを意識した製品である点がうかがえる。対応フォーマットも5.6MHzのDSDや384kHz/32bitのPCM(DSX)など豊富だ。

 前面の有機ELパネルは小型だが、日本語表示も可能となっており、利用感もいい。

e20 mk3──研ぎ澄まされた空間がクールにぴたりと決まる

 一方、「e20 mk3」は、カナダのexaSoundの製品。こちらも片手でもてるほどコンパクトな本体だが、世界で始めてDSD11.2MHzに対応するなど、高い技術力に裏打ちされた製品でもある。

e20 mk3。価格は税別33万2952円。exaSoundは、ハードだけでなくソフトも開発できる体制をもち、開発スピードが速く、最新フォーマットにもいち早く対応できる点が特徴だ。

 exaSoundは2010年設立の若い企業だが、ハードだけでなく、ドライバーソフトも含めたすべてを自社で内製するユニークなブランドである。最新フォーマットへの対応や新OSのサポートなど開発力の速さも特徴である。

 e20シリーズのラインアップは使用部品の異なる複数機器で構成されている。今回試聴したe20 mk3のほかに水晶発振器の精度を上げた「e20 mk3 SE」、超低ジッタークロックを使い、回路設計を一新した「e22」などがある。

 そのサウンドはきわめてクールで正確な印象。空間の広さ、そして細かな場の気配まで感じさせるような緻密な描写力の高さがあり、これまた外見からは想像できない質の高い音が響く。ノイズの排除など、徹底した対策がなされていることの表れだろう。

 INVICTA、e20 mk3などの音を聞くと、ハイレゾ、そしてPCオーディオの地平はまだまだ広く、可能性に満ちたものだと再認識させられる。

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