東京大学は12月26日、昆虫において匂い情報の入力から、行動を起こすための命令信号の出力までを担うすべての脳領域と経路を特定したと発表した。
これは東京大学先端科学技術研究センターの研究グループの成果。ファーブルの「昆虫記」にもオスの蛾がメスの匂い(フェロモン)によってメスを探索する独特な行動が記述されているが、触覚による入力から脳の前運動中枢により行動を起こす命令までの間はどんな働きになっているか解明されていなかった。
研究グループはカイコガの脳の特定の領域に蛍光色素を注入し、特定の領域に投射を持つニューロンのみを標識する染色法を適用。これまでフェロモンに反応する領域は一次嗅覚中枢と前運動中枢である側副葉のみが知られていたが、今回この2領域と接続している匂い情報を処理する候補領域を複数同定。同定領域すべてに電極を挿し込み、フェロモンに反応するニューロンの発火を調べあげた。カイコガはフェロモンに反応すると独特なジグザグな移動パターンを起こすが、その行動指令が脳のどこで発生するかという、ニューロン発火の経路を特定したという。
フェロモンに反応して生じるフリップフロップ神経応答(次に1が来るま0を保持する)は、哺乳類の大脳皮質のニューロンと類似しており、昆虫の脳が哺乳類の脳と神経回路でも似ていることは脳の進化を考察する上で興味深いという。研究グループでは、スーパーコンピュータ「京」を用いて脳を精密に再現することを目的として進めている「カイコガ全脳シミュレーション」に貢献するとともに、匂い探索ロボットや人工知能研究、有害昆虫の行動制御などに役立つとしている。