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TOKYO AUDIO STYLE 第2回

「いい音」を探る楽曲制作プロジェクト

作曲現場からオーディオまで、プロが思う「いい音」とは

2014年12月27日 09時00分更新

文● 荒井敏郎 企画/構成●荒井敏郎
写真●Yusuke Homma(カラリスト:芳田賢明)

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制作現場でも見られる「いい音」に対する認識の違い

与田 いい音っていうのはドンシャリ(高音/低音)の表現の仕方なんですよね。でも中域重視で音を作っていくから融合できない。

小島 ドンシャリは誰もが好きですけどね。

与田 でもなんで、中域ばかりもっこりした音をみんなが作ってくるのかってことですよね。その謎は解明したいな。

小島 洋楽だと、たまに下はまったく切ってなくて、10Hz台のシンセベースなんかが入っているものがあったりしますね。聴こうと思って音量を上げるとスピーカーやばいなってときもあります。帯域をフルに使わないというのは、やっぱりラジオとかテレビから流れてくる音の影響ですかね。

与田 音楽を一生懸命聴いていた世代とは違いますから。

小島 命がけで聴けと(笑)。

与田 そうですね。そういうぶっとんだ音っていうのはなかなかないですからね。

音圧を上げた状態で提出することが多いと語る山田さん

山田 仕事でいろいろなところに音源データを送りますけど、音圧を上げて波形がかまぼこみたいになっているもののほうが気に入られやすい傾向にはありますね。だからそういうかたちにして提出しちゃいますね。

与田 そういう意味では、制作の現場にいるエンジニアやディレクターがどんどん若返っていて、経験値がなくて、それが当たり前になっていることは確かですよね。昔だったらエンジニアも上の人にアシスタントでついてはじめてましたけど、いまは自己流の人が多くなっていて、その連鎖もあり「いい音質で聴きましょう」というところから制作の現場が離れていると思いますね。若いミュージシャンやレコード会社の人は、いい音の基準が以前と異なりますよね。ジャッジする側の人が、音がバシバシに入っていないと「これちょっといまいちだよね」って言い出すので。

山田 だから、とりあえず最後に10kHzの帯域をあげてから書き出してます。

小島 化学調味料的な最後のひと味ですね(笑)。

山田 そうしないと音がこもってるって言われることが多いんです。

与田 かまぼこ型の波形を拡大していくと頭がつぶれているのかわかりますよね。マスタリングのときに音のピークを探して、音がこもっているところをイコライザーで調整してならしてから、最後にリミッターで音圧を上げるんですよね。結局、凸凹しているとリミッターに当たったときにこわれちゃうので、なるべくフラットにしてからコンプレスすると隙間がなくなるんですよ。それがいまよく使われているマスタリングの方法ですね。

小島 オーディオ全盛期の頃には、売りたいコンポには必ずラウドネス※1のスイッチを入れてた、なんてウワサもありました。で、売りたくないものはラウドネスをオフにして、「ほら全然違うでしょ」って言うわけです(笑)。

与田 ほんとに化学調味料みたいなものだよね。僕らが子供のころは何でもかんでも味の素をかけていたんだけど、最近はもう全然使わないよね。あれをかけるとみんな同じような味になるって気づいてきて、やっぱり素材の味が重要とか言ってますよね。そういう意味では、誰かが音楽における味の素を「やめようぜ」っていうのを言ってもいい時期なのかもしれないですね。

※1 人の聴感特性に合わせて低音域と高音域を増強する補正回路

(次ページでは、「アレンジやマスタリングの重要性や必要性」)

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