佐武宇綺が聞いちゃいます オーディオのココが知りたいです! 第9回
エンジニア藤田厚生さんが気付いた“いい音”が生まれる瞬間
ハイレゾ時代でも、狙う音は驚くほどアナログ時代と同じ (3/6)
2014年12月25日 17時00分更新
デジタル制作の時代になってできた、マスタリングという仕事
藤田 マスタリングという作業は、CDが出てしばらくしてから出てきた作業で、その作業を担当するようになったのは、もう10年以上前です。当時は言葉すら浸透していない状態でした。そこには今までのレコーディングとは違う新しい技術があって、新しい経験もできたのですが、そのときに改めて感じたのが「音は気持ちよくないといけないな」ということです。パッケージを聞いていい気持ちになれる。作る側もそういう意識を持つべきだなって思ったんですね。
── 編集部からお聞きします。藤田さんがいまスタジオで手がけられているマスタリングとはどんな仕事でしょうか?
藤田 録音をして、ミキシングして2トラックの完成系(別々に収録した複数のトラックを左右2つのトラックにまとめた状態)を作る際、同じエンジニアがすべてを手がける場合もあれば、違うエンジニアの場合もあります。最近ではアレンジャーが全部自宅で作って、最後のミキシングだけ別のエンジニアが手がけたり、ミキシングまで全部作曲者や制作側でやる場合もあります。でも最後には、つまりCDの原盤を作ったり、配信用のデータを作ったりする前には、必ず技術的な処理が必要になります。
これはアルバムを構成する1曲、1曲について制作側がこだわるところが違うためです。だから単純にそれを集めただけだと、通しで聞くとちぐはぐに聞こえたりとか、統一性がないように感じるんですね。曲ごとに音量が大きかったり小さかったりしますし、音質的にも低音がボンボンしているのもあれば、高域がシャリシャリするものもある。収録したスタジオによって違いが出るので、並べて聞くだけでは聞きづらい。それを整えてあげて、誰が聞いても違和感なく聞けるようにするのがマスタリングという作業です。
── 作業的にはミキシングした後に、マスタリングの処理が加わるという理解でいいのでしょうか?
藤田 はい。マスタリングの作業では、全体の統一を取るだけでなく、曲のイメージを膨らませることもできます。マスタリング用のアウトボードの機材だったり、ソフトウェアを使うと、「ベースの帯域が足りないからもう少し聞こえるようにしたい」といった要望にも応えられるんですね。ただ、すでにミキシングされた音源では楽器のバランスは変えられないですし、できることには限界もあります。
マスタリングの工程で音を加工していくと、もうちょっと歌をパリっと聞かせたいとか、(仕事を頼んだ側にも)いろいろと欲が出てきて、本来ならミキシングの工程でやるべき作業を求められたりするようになります。でもそういうときはもう一回ミックスからやり直してくださいとお願いしたほうが早い場合が多いですね。
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