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ロードマップでわかる!当世プロセッサー事情 第283回

スーパーコンピューターの系譜 CRAY-1と同じ性能を目指したParagon

2014年12月15日 12時00分更新

文● 大原雄介(http://www.yusuke-ohara.com/

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ノード間接続をMesh Networkに切り替えた
Touchstone Delta

 Touchstone Gammaに続いて1990年に登場したのがTouchstone Deltaである。Touchstone Deltaの最大の違いは、ノード間接続を2次元のMesh Networkに切り替えたことである。これにより、ノードの数を増やすことが可能になった。

Touchstone Delta。画像はComputer History Museumより

 各々のノードはi860と16MBのメモリー、それにMRC(Mesh Routing Chip)と呼ばれるものが搭載されている。i860の動作周波数は明らかになっていないが、各々のノードのピーク性能が60MFLOPSと書いた資料と66MFLOPSと書いた資料が混在している。

 30MHz駆動なのか33MHz駆動か正確には判断できないのだが、定格33MHzのものをわざわざ30MHzに落とす理由もないので、おそらくは33MHz駆動ではないかと思う。

 Touchstone Deltaそのものは、全体で528個のi860のノードを持ち、これ以外にi386を搭載したノードがI/Oノード×32、イーサネット×2、サービスノード×6、テープノード(これは真偽不明)×2ということで、570ノードから構成される。

 ただしi860のノードに関しては、単一アプリケーションから利用できる最大数は32×16の512ノードという制限があるとしている。

Touchstone Deltaの一部を示したもの。実際にはi860のノードは16×33=528個並び、他にi386のノードが42ノードあったとされる

 一方Mesh Networkは、MRCはMIM(Mesh Interface Module)を経由して各ノード同士を接続する。MRCそのものは最大65MB/秒の転送速度を持つが、MIMそのものは内部のFIFOの制限で最大26.7MB/秒(22MB/秒に制限されていた、という話もある)に抑えられていた。

 これはiPSC/860に搭載されたDirect-Connect Moduleの2.8MB/秒の10倍高速ではある。

 しかし、iPSC/860は7次元のCosmic Cube接続のおかげで最大でも2Hopで他のノードと通信できるのに対し、Touchstone Deltaでは32×16の両端で通信する場合は46Hopとなり、ずっとレイテンシーが大きくなるため、トータルとしてどの程度高速になったかは微妙なところである。

 とはいえ、性能はそう悪くなかった。1991年に出された“Massively Parallel LINPACK Benchmark on the Intel Touchstone DELTA and iPSC/860 Systems”という論文によれば、Touchstone DeltaはiPSC/860(これはTouchStone GAMMAのp=128に相当する)と比べてもずっと性能が伸びることが示されている。脚注によれば同じソースコードを使って最大で13.9GFLOPSという数字を叩き出したとしている。

これは論文のFigure 4を抜粋したもの。problem size(データの大きさ)が増えるほど、ノード数を増やしたときの性能の伸びも大きいと記されている

 これはこの当時の中では間違いなく最高性能のマシンであった。ちなみにピーク性能はノードあたり66MFLOPSとすると33.8GFLOPSという計算となり、ピーク性能の4割ほどの数字になる。連載116回で説明した通り、i860でピーク性能を出すのは非常に難しかったため、ここまで性能が出ただけでも十分健闘したと思う。

 ちなみに先ほどのTouchstone Deltaの写真だが、あれは2キャビネット分でしかない。1つのキャビネットが4つに区分けされ、各々に動作状態を示すと思われるLEDが4×4の16組並んでおり、これが4つ並ぶので64ノードとなる。

 実際はこれを9キャビネット並べる形になった。Computer History Musiumには、1992年3月のPopular Science誌の表紙が飾られているが、ここに並んでいるのがフル構成である。おそらくは手前の8つはi860のみのノードで、一番奥のノードはi860とi386の混在構成をとったものになっていると思われる。

1992年3月のPopular Science誌の表紙にあるのがTouchstone Deltaのフル構成と思われる。画像はComputer History Musiumより

 Touchstone Deltaは1台しか存在しない。インテルが製造後、このマシンはCaltechに納入され、さまざまな用途や評価に利用された。先の論文も、Caltechに納入されたマシンを使って測定したようだ。

 もともとTouchstone DeltaはTouchstone Sigmaのプロトタイプ、というより先行量産の評価機であり、このまま量産に移すつもりもなかったようだが、加えれば評価の結果もここには関係している。

 かなり後になるが、1998年5月にIDGのFCW(Federal Computer Week)誌が1998年5月に特集をしたとき、Justin RattnerはTouchstone Deltaを評して「我々はマシンを提案すると、潜在的なユーザーはいつでも最低2倍以上のサイズのマシンを欲しがった」としており、512ノードでは十分ではない、という判断をしたのも当然であろう。

 もっともその一方で、Touchstone Deltaを「ILLIAC IVの再来」と評するような声もあった。やや脇道にそれるが、ILLIAC IVというのはイリノイ大学が開発したスーパーコンピューターである。

 ILLIAC I~IVまであり、Iは1952年に開発された真空管式のマシンである。IVは1965年に開発を始めたが、途中NASAに移管されたりと紆余曲折があり、結局1972年になって初期の目標性能の5分の1のものが、当初の5倍以上の予算をかけてやっと完成したにすぎなかった。

ILLIAC IV。画像はComputer History Musiumより

 おまけに、完成しても連続運用できるようになったわけではない。安定して連続稼動が可能になり、その上でまともなアプリケーションが動くようになったのは1976年のことである。

 悪いことにその時にはCRAY-1がもっと廉価で同じ処理性能を発揮しており、そんなこともあって有名なヘネシー&パターソンの“コンピュータ・アーキテクチャー”(通称:ヘネパタ本)の中では、以下のように紹介されている。

 「この歴史セクションで我々は、初期のSIMDアーキテクチャーの代表例として、もっとも悪名高いスーパーコンピューターであるIlliac IVから初めて、次いでVectorアーキテクチャーの代表例として、もっとも有名なスーパーコンピューターであるCRAY-1を取り上げたい」

 べつにIlliac IVの紹介をしたいわけではなく、見方によってはTouchstone DeltaがIlliac IVのようにいろいろ遅れている部分があった、ということであろう。ただこのあたりはすでに藪の中である。

→次のページヘ続く (Touchstone SigmaがParagonに

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