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テクノロジー虎の穴 第6回

通信衛星、GPS、地球観測……私たちの生活を支える様々な宇宙の技術

松浦晋也氏に訊く、はやぶさ2と宇宙のテクノロジーのこれから

2014年12月17日 09時00分更新

文● 松野/ASCII.jp編集部

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各国の宇宙開発、今勢いがあるのはインド? 有人宇宙船の計画も

――国別の衛星打ち上げ数では、アメリカとロシア(旧ソ連)が断トツで、かなり数は減るものの中国と日本が続いている、という形だと思います。今後、そのバランスは変わっていくのでしょうか。

松浦 「現状、日本よりも中国のほうが明らかに打ち上げの数は多いです。それから、近いうちにインドに抜かれる可能性もあるかもしれないと思っています。年によってばらつきはありますが、予算を年に6%ぐらい増やしてますから、いずれそこでも抜かれるかもしれない。この間、火星探査機の軌道投入に一発で成功していますし、技術が低いわけでもないんですよ。有人宇宙船の計画も着々と進めていて、2020年あたりに実行する予定のようです。ただ、インドの計画は大きなアナウンスなしに延期することもあるので、実際にいつ上がるかは分かりません(笑)。でも、日本は(有人の計画を)やってないですから。やってない奴とやっている奴の差は果てしなく大きいわけです」

宇宙開発競争の中、インドは有人宇宙探査にも挑戦しようとしている

――有人宇宙探査の計画は、やはり日本では難しいのでしょうか。

松浦 「いまの政府にやる気がないんです」

――いま、宇宙政策委員会が策定した「宇宙基本計画」の見直しが大詰めを迎えています。安全保障と産業振興に重点をおいた内容になっていますが。

松浦 「あれも非常に変なことをやっていて、もともと五年の中期計画なんですよね。それを2年でやり直して、今度のものは10年計画にすると言っている。安全保障と産業へシフトすると言っていますが、僕はあれは失敗すると見ています。2012年、内閣府に宇宙戦略室ができてから、利用だ利用だと言ってますけれども、特に宇宙の場合は、技術があるときに利用ができるんですよ。日本はその技術が足りないから、旧科学技術庁(文部省と統合され、現在は文部科学省)で技術開発をやっていたわけで。それを2001年の中央省庁再編のときに、旧科学技術庁系は技術開発ばかりやっていて産業が育たないと取り上げていたんですけども、種がなくて産業が育つわけがないんです」

――日本の宇宙開発の予算の問題もあるように思えます。

松浦 「予算は少ないですよ。GDP比で見ると分かるんですが、アメリカのGDPは大体日本の2倍。でも、宇宙関係の予算はNASAだけで日本の10倍使っています。国防総省も宇宙関係で技術開発を山ほどやって、NASAと同額くらいの予算を持っていますから、大体日本の20倍の予算をかけていると言えます。それが産業の足腰になって、世界中に衛星やロケットを売ってるわけですよね。

 要するに、まともにやっていたら勝てないんですよ。この30年で探査機4機を飛ばした国と、2年ごとに火星へ1機か2機飛ばして、さらに金星や木星にも飛ばしている国とは普通に考えたら勝負にならないんです。だから初代はやぶさを作ったわけですよね。そういう状況に対して、奇襲攻撃をかけるやり方はないかと考えて、『アメリカは小さいものをやっていない』ということになったんです。多くの新しい技術も搭載して、博打ではあったけれども、結果的には成功できた。

 余談ですが、はやぶさ2の次の探査機もあるんだよ、ということはなるべく本に書くようにしています。いま、ソーラー電力セイルを使った探査船の計画なんかが進んでいますが、これから計画しても実現は2020年代の後半になるかもしれないし、予算はライバルとの奪い合いです。もう少し予算を振り向けてもいいのではないかと思っていますけれどね」

(次ページ、「GPSと湾岸戦争の関係」に続く)

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