このページの本文へ

前へ 1 2 3 次へ

「IBMリーダーズ・フォーラム 2014 西日本」講演レポート

IBMの掲げる3つの基本戦略と地域経済活性化の関係

2014年12月08日 09時00分更新

文● 大河原克行

  • この記事をはてなブックマークに追加
  • 本文印刷

テクノロジーを通じてどうやってビジネス価値を創出するのか

 一方、パネルディスカッションでは、テレビ新広島の代表取締役会長であり、広島経済同友会代表幹事である永野正雄氏、経済産業省中国経済産業局長の畑野浩朗氏、日本IBM 取締役専務執行役員 エンタープライズ事業本部長の薮下真平氏がパネリストとして登壇。広島大学 地域経済システム研究センター長の伊藤敏安教授がモデレータを務め、「スマートな時代の新たな価値創出」をテーマに議論を行った。

テレビ新広島の代表取締役会長であり、広島経済同友会代表幹事である永野正雄氏

経済産業省中国経済産業局長の畑野浩朗氏

日本IBM 取締役専務執行役員 エンタープライズ事業本部長の薮下真平氏

モデレータを務めた広島大学 地域経済システム研究センター長の伊藤敏安教授

 経済産業省の畑野氏は、「広島県の南にある呉市は、戦艦大和を造船し、当時最高の海事技術が結集。戦後にはその技術が解き放たれて、この地に自動車、電機、通信、デバイスといった先端企業が集積されることになった。だが、中国地域においては、有効求人倍率が高いが、その裏返しとして労働力不足といった問題が浮き彫りになっている。労働力の減少が、生産力向上、競争力向上の課題になっている。それを解決するツールはITであり、技術開発力である」と指摘した。

 IT活用の具体例として畑野氏は、畜産農家での子牛の飼育や、森林でのバイオ発電への取り組み、電子デバイスであるパワー半導体を、省エネ化や電気自動車分野に活用することで、新たな製品が誕生している例などを挙げ、ITの活用、技術開発が重要であることを示した。

 テレビ新広島の永野氏は、「若者がテレビを楽しむ時間が減っているのに加えて、広島県は、レコーダー普及率が75%と全国一の録画視聴環境が整っており、タイムシフト視聴が多い。従来の『視聴率』が通用しなくなってきている」と、テレビ局が置かれた現状を説明。そのうえで、IT活用への期待を語った。

 「広告出稿も投資効率が高い東京に集中し、これまでの60%から、60%強に増えている。地方では地域密着型の番組を作って、大いに発信することも必要であり、ITを使って創造の時間に持って行くことが必要。そこで社員の空いた時間を創造的な作業の時間に使いたい。そのための機械化を目指している」(永野氏)

 日本IBMの薮下氏は、IBMが開発した「Watson」の現状と、社会への貢献事例などについて説明した。Watsonは「人が聞きたいことを3秒で応えてくれる仕組み」だと語る藪下氏は、医療分野へのWatsonの適用事例を紹介した。

 「がん治療における医師の『相談相手』として、複数の病院でWatsonが利用されている。150万人の患者の症例と、200万ページに及ぶ最新医学書のデータを入力している。ここに患者のカルテ情報を組み合わせると、有効な治療法を提示したり、薬の組み合わせで副作用の可能性があることを指摘する。もちろん、最終的な判断は医師が行うのだが、人間の判断をより早く、より良いものにするために活用されている事例だ」(藪下氏)

 さらに藪下氏は、単なるデータを価値のある情報に変える、簡単な例を示した。

 「ある日、当社の社員が客先を訪問する際に、道路を多くの消防車が走り去っていった。スマホとソーシャルツールから情報収集をしたところ、新橋方面で火災が起きていること、それがJR線の近くであることが突き止められた。そこで、JRではなく地下鉄で移動することにした。これが、データから情報へと価値を高めていく事例のひとつ。自分なりの洞察を見いだして、情報を活用していくことが必要」(藪下氏)

 モデレータを務めた広島大学の伊藤教授は、米経済学者のタイラー・コーエン氏の著書「大格差 ―機械の知能は仕事と所得をどう変えるか」を引用しながら、ITがビジネス価値を創造していく未来について語った。

 「IBMのコンピュータ『Deep Blue』が人間の王者に勝って以来、チェスの世界では『フリースタイル』と呼ばれる試合方法が人気になっているという。(コンピュータの活用を含め)どんな手法を使ってもよいが、時間制限は厳しいというルール。実際にコンピュータを活用して、最適な一手を打つという人も増えている。これがひとつの例であるように、システムや機械をうまく使える人と使えない人との間に『格差』が生まれる時代がやってくる。これからは機械や情報の活用といったことを考えていかなくてはならない」(伊藤教授)

■関連サイト

前へ 1 2 3 次へ

カテゴリートップへ

アスキー・ビジネスセレクション

ASCII.jp ビジネスヘッドライン

ピックアップ