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「IBMリーダーズ・フォーラム 2014 西日本」講演レポート

IBMの掲げる3つの基本戦略と地域経済活性化の関係

2014年12月08日 09時00分更新

文● 大河原克行

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なぜIBMは「データ/クラウド/エンゲージメント」を戦略に掲げるか

 講演では、急遽欠席となった日本IBMのイェッター社長に代わり、日本IBMの下野雅承取締役副社長が、「テクノロジーで成長機会を」をテーマに講演。今年2月発表の2013年年次報告書において、IBMが「データ」「クラウド」「エンゲージメント」の3つを基本戦略に打ち出したことに触れながら、取り組みを紹介した。

IBMが基本戦略に掲げる「データ」「クラウド」「エンゲージメント」

 「データ」という観点から、下野氏は大量のデータから意味や価値を引き出す取り組みの重要性を訴えた。日本国内において毎日620万GB(DVD換算で150万枚)ものデータが生成されていること、世界中にネットワーク接続される機器やモノは2015年までに約1兆個に達すること、などのデータを挙げて、次のように話す。

 「データは、人類にとっての大きな『天然資源』になる。放っておけば意味のない大量のデータのなかから、どうやって意味のある情報を生み出すかが課題。それは、石油そのものでは意味がないが、精製すればガソリンになり、さまざまなところで活用されるのと同じ。石油を精製し、使えるようにする役割を担う人たちを、情報の世界では『データサイエンティスト』と呼ぶ。そうした人たちの育成も課題である」(下野氏)

 「クラウド」では、2014年にリリースされたソフトウェアの91%がクラウド上での展開を前提に開発されていること、2016年までにクラウド利用を前提としたソフトウェアが全体の5分の1に達することなどを示し、IT産業全体がクラウド活用に大きく舵を切っていると語った。

 「IT産業は『製品ビジネス』から『サービスビジネス』へと大きく舵を切っている。パッケージで購入してきたソフトウェアを、ネットワーク上で使用するといったことが起こっている。これを自動車産業に当てはめれば、これまで自動車を所有していた人たちが、すべてタクシーやレンタカーを使用し、自動車を直接購入する人がいなくなるといったことが起こっているのと同じだ」「クラウドの活用は、柔軟性とスピードが速まるという点で、重要な意味がある」(下野氏)

 「エンゲージメント」について下野氏は、日本語を当てはめるならば「つながり」という意味だと述べた。たとえば「Facebookとスマホを使って、企業、政府、コミュニティ、個人が、より緊密に相互につながるということ」がエンゲージメントだと説明する。

 「メールの時代には『1日ぐらいは返事が待てる』という認識だったが、ソーシャルツール時代になると『5~10分』単位での返答を期待している。メールとソーシャルツールでは、求められているものが違う。日本人の32%は、朝起きるとスマホにメッセージが届いていないかを確認する。また40%の人は、モノを買う前にサイトで製品の評判をみている。人間の生き方や、働き方が変わっており、これからソーシャルツールに慣れ親しんだ若い人が社会人になると、時代が大きく変わることになる」(下野氏)

 ソーシャルツールを通じた新たなエンゲージメントの拡大する社会について、下野氏はさらに幾つかの変化を例示して見せた。

 「98%の利用者は『一度期待を裏切られたアプリは二度と使わない』と回答している。また『サービスのレベルが低いと感じて、購入をやめたことがある』と回答した消費者も78%に達する。人間同士が対面で接すればフォローできる部分もあるだろうが、ソーシャルツールではそれができない。一方で、ソーシャルメディアで迅速に対応してもらった消費者は20~40%も多い金額を追加購入するという調査結果もある」(下野氏)

ソーシャルツール時代の顧客行動はこれまでとは大きく異なる

 こうした新たなエンゲージメントが広がることで、ビジネスでは「地理的な優位性が消える」「大きな寡占化が起きる」といった変化が生まれる可能性があり、「スマホとソーシャルツールがもたらす新たなつながりを、自分たちのビジネスのなかにどう入れていくのか、ということがこれから大切になる」と、下野氏は指摘した。

 このようにデータ、クラウド、エンゲージメントというIBMの方向性を示しながらも、下野氏はこれはIBMだけに限られた戦略ではないことを強調して講演を締めくくった。

 「これはIBMの戦略というよりも、ITが新たな次元に行こうとしていることを示したものである。IBMのようなBtoBの企業と、アップルやグーグルのようなBtoCの企業との組み合わせによって、変化が起きるといったことがこれからの世界。そうしたことを踏まえて、IBMはデータ、クラウド、エンゲージメントという3つの切り口から取り組んでいくことになる」(下野氏)

 さらに、日本IBM 専務執行役員 インダストリー事業本部長の福地敏行氏は、この3つの方向性を実現するためのテクノロジーを「CAMSS」だとまとめた。

 「データ、クラウド、エンゲージメントという3つの方向性を実現するための新たなITサービスのキーワードは『CAMSS』である。CAMSSはクラウド、アナテリィクス、モバイル、ソーシャル、セキュリティを意味する。これらによって、企業の競争力を高めていくことができる」(福地氏)

(→次ページ、テクノロジーを通じてどうやってビジネス価値を創出するのか

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