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エンジニアにとって大切なのは正しいコードとくじけない心

Googleドキュメント生みの親、Boxのビジネスとエンジニア魂を語る

2014年12月02日 09時00分更新

文● 河内典子(@mucchio) 写真●曽根田元

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エンジニアと起業家のあこがれのサム・シュアレス氏。シリコンバレーで四半世紀生きてきたシュアレス氏は、6社立ち上げ、4社の事業売却を成功させた起業家であり、Googleドキュメントの生みの親としても知られている。現在は米Boxのエンジニアリング担当シニアバイスプレジデントを務めている。Webで仕事をしたいすべての人に向けてパワフルなパンチラインがたくさん飛び出したインタビューをお届けする。

「当時、クラウドは手品みたいなものだった」

――まず、ご自身について読者に自己紹介してください。

シュアレス氏:シリコンバレーで25年間、まさに四半世紀ビジネスをやってきた。その間、ソフトウェア開発での起業を6社し、そのうちの4社はM&Aによる事業売却を成功させた。この数字はシリコンバレーでは成功した部類に入るよね(笑)。

「日本に来てからパソコンを開いていなくて、iPad miniだけで十分。やっぱり今はクラウドアプリの時代だよね」と話すシュアレス氏。合気道2段の腕前

――はい。もちろんです。

シュアレス氏:そのうち、もっとも成功した例で、みんなが知っているのは、2006年のAjaxワープロソフト「Writely」のグーグルへの売却だろう。のちに、Googleドキュメントになり、いまやWebで仕事する人たちの使い勝手のいいインフラになったので知られている。Writelyの最初のプロトタイプと最初のバージョンを作ったのは、2004年。まだGoogle Mapsで一躍有名となった「Ajax」や「Web2.0」という言葉が流行る前だよ。

――すごい情熱ですね。そもそも開発のきっかけは?

シュアレス氏:わかりやすく大ざっぱに言うと、37signalsのbasecampみたいなWeb型プロジェクト管理ツールを作りたかったんだ。1991年に創業した会社は、ToDoやカレンダーを兼ね備えたアプリを開発するVirteroという会社だったし。オンラインでコミュニケーションして何かをすることにすごく情熱があった。自分が何かをチームでコラボレートして開発するときに、便利で役に立つツールを作りたかったんだ。人からなんと言われようと、人から理解されなくても、オンラインでコミュニケーションしながら一緒に開発できたらベストだという直感を信じてたよ。

――Ajaxの流行の前にクラウドで使えるAjaxワープロアプリのWebサービスを作ってしまったんですね?

シュアレス氏:そう、当時は回線は遅いし、PCの性能も不十分だし、クラウドという言葉はなくて、「オンラインストレージ」という概念だった時代だから、本当に誰も理解してくなかった。「クラウド上のドキュメントをコミュニケーションしながら編集する」と言っても、ぜんぜんピンときてくれなかったんだ。

「クラウド上のドキュメントをコミュニケーションしながら編集する」といっても、ピンときてくれなかったんだ」

――どのようにサービスの魅力を伝えたのですか?

シュアレス氏:まず、クラウド上の私の書類をコラボレート相手が編集できるのをイメージさせるのがとてつもなく難しかった。仕方なく、私はクラウドにアップした書類を編集できるのが便利なことを分かってもらうために、目の前で私のPCを相手に渡して、コラボレーション相手のドキュメントを同時に編集できるってのはすばらしいだろ?って分かってもらうように説明したさ。いま思い起こすと笑っちゃうけど、当時は手品みたいなものだったんだ。

「『Haxl』なんかを勉強するといいと思う」

――なるほど。現在はBoxにいらっしゃるんですよね?

シュアレス氏:グーグルでGoogleドキュメントの開発をした後、グーグルベンチャーズという投資チームでプリンシパルとして働いていた。でも、僕は自分で手を動かして製品を作る方が向いていると実感したよ。それにグーグルは私には大きすぎたってこともあって、Boxにジョインしたんだ。

エンタープライズ向けにBoxのクラウドアプリケーションプラットフォームを開発してる。エンタプライズ向けは信頼性が重要だから、小さなチームではなく、Boxのような大きなプラットフォームの方がエンタプライズから信頼を得やすいんだ。

――すでに日本でも多くのユーザーがいます。

シュアレス氏:日本でも、コニカミノルタ、サンリオエンターテイメント、ディー・エヌ・エー、日揮、ファミマ・ドット・コム、三菱地所、早稲田大学などで使ってもらっている。Boxのクラウドでアプリを開発しているデベロッパーは4万7000人以上いて、アプリ開発のパートナーも、日本企業含めて1000社以上あるから、その大きさは想像できるはずだ。

このBoxクラウドでのアプリ開発はだれでも参加できるので、気になった人はぜひ参加してみてほしい。優れたクラウドアプリが開発できたら、それはプラットフォームになれる時代だから、ぜひトライしてもらいたい。それと、クラウドに興味のあるエンジニアはフェイスブックがオープンソース化した関数型プログラミング言語「Haskell」向けのデータアクセスライブラリ「Haxl」なんかを勉強するといいと思うよ。

「Boxクラウドでのアプリ開発は誰でも参加できるので、気になった人はぜひ参加してみてほしい」

「成功したと感じるその瞬間まで起業家は惨めなもの」

――日本のエンジニアにメッセージをお願いします。

シュアレス氏:エンジニアへは、とにかく「正確なコードを書け!」ってことだね。私はプログラムを学校で勉強したことはないけど、正しい正確なコードを書くということだけを心がけてここまできたよ。本当にそれだけだね。

――スタートアップを志す人たちにメッセージはありますか?

シュアレス氏:今回、スタートアップやシリコンバレーをかっこいいと考える日本の若者たちにたくさん会ったけど、彼らに伝えたい。スタートアップなんて全然クールじゃないさ。みじめな想いをし続けて、それこそ成功したと感じるその瞬間まで起業家は惨めなものさ。けど、成功するまで、信じてやり続けるんだ。メッセージを送るとしたら、「起業家はお客の欲求をきけ、そして解決しろ」ってことかな。それはユーザーかもしれないし、本当のお客さんかもしれないけど。それと、「失敗を恐れるな!」ってのも大事だね。

メッセージを送るとしたら、「起業家はお客の欲求をきけ、そして解決しろ」ってことかな。

――これからホットな領域は?

シュアレス氏:いろいろあるさ。ビットコインなどの暗号通貨、建設現場の空撮ドローンのスカイキャッチ、3Dプリント、バーチャルリアリティ仮想現実のOculusヘッドマウントディスプレイ、ウェアラブルデバイス、ビッグデータ、バイオ、人工知能、IoT、ほかにもたくさんある。もし、これからスタートアップを始めたいなら、気になる分野でがんばればいいのさ。

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筆者紹介:河内典子(こうちのりこ)

 

サラリーマンとして編集ライターを20年弱していたが、この秋からフリーランスに。アプリ制作者を応援するような記事が得意。子育てや子ども向けプログラミング教育にも興味がある。前職では「おばかアプリ選手権」の発起人として並々ならぬ情熱を注いできた。フリーランスでもできる面白いアプリ選手権イベントの運営をしたがっているので、コラボしてくださる企業さま、お気軽にご連絡ください。

https://twitter.com/mucchio

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