パシフィコ横浜から東京ビッグサイトに場所を移して、「楽器フェア」が3年ぶりに戻ってきました。
会期は11月21日〜23日の3日間。21日までは幕張メッセでプロ音響・映像機器の「Inter BEE 2014」があり、また23日、24日はビッグサイトの別フロアで「Maker Faire Tokyo 2014」も開催されていた関係で、プロ、コンシューマー、そして実験的なアマチュアの作品まで、一気に見られるという奇跡的な(殺人的な?)日程となっていました。
楽器フェア単体で見ると、著名アーティストの機材展示や、イケベ楽器、イシバシ楽器、クロサワ楽器、島村楽器、chuya-online.comといった楽器店の出展が目新しいところ。今までより特設ステージや出展者ブースでのミニライブもパワーアップしており、見て触れて聴けて買えるという、エンドユーザー向けのイベントになっていたようです。
ここでは大手メーカーの目玉展示とMFTの注目展示を中心に見て行きましょう。
ローランドは往年の音源「SC-88Pro」をiOSアプリ化
ここしばらく話題にのぼるのはお家騒動ばかりという状態でしたが、やっと楽しそうな製品が出るようです。ローランドが楽器フェアのタイミングに合わせて発表したのは、「SC-88Pro」を復刻したiOSアプリ「SOUND Canvas for iOS」でした。Virtual MIDIやInter-App Audioに対応する音源ということで、まだ発売時期も価格も未定ですが、これは楽しみです。
若い方々にこのアプリの意義を説明いたしましょう。ローランドのSCシリーズは、DTM黎明期の1990年代に人気のあった外付けのMIDI音源です。まだパソコン上でオーディオデータを扱おうとすると結構なお金のかかる時代で、DTMと言えばMIDIで外部音源を鳴らすのが普通でした。
SCシリーズの中でも1996年に発売されたSC-88Proは、シリーズの最終発展形態とも言えるものです。今は亡きレイ・ハラカミが使っていた機材としても有名ですし、日本の音楽文化を考える上でも重要な機材です。
当時、ローランドのSCシリーズは、MIDI音源として標準的な機材であり、データの互換性も高かったため、ほかの作者が打ち込んだデータを再生するプレイバッカーとしても活躍しました。皆さんさまざまな打ち込み技を駆使して、いかにホンモノっぽく鳴らすか、ありえない音を出すか、切磋琢磨されておりました。
当時はサンプラー派で、極めて大雑把にやっていた私は「MIDIであんなチマチマやって大変だなあ」くらいに思っておりましたが(すみません)、データ量の軽いMIDIデータは、インターネット以前のパソコン通信で扱うのに適しており、そうしたMIDIデータをダウンロードして中身を見ては「おお、すっげー」みたいに楽しんでいたわけです。
その後、1990年代の終わりには、インターネット接続が普及し始め、MIDIデータもウェブサイト上にアップされるようになります。が、当時日本で唯一の著作権管理団体様が「我々の管理する曲をネットに上げるならお金を払ってくださいね」と各サイトのオーナーにお願いを始めたため、皆さんMIDIデータを取り下げてしまいました。
こうしてMIDIと通信を中心に成り立っていた我が国のDTM文化は一旦死滅します。が、後年、著作権管理団体様とうまく立ちまわった動画サイトの登場により、当時のMIDI打ち込みの強者たちと共に、我が国のDTM文化は復活を遂げるわけです。
で、その中心となったVOCALOIDも、次のステージへと進化しました。
(次ページでは、「ヤマハの『VOCALOID4』をチェック」)