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ヤフーが検索の常識を完全無視したアプリ「SmartSearch」を出した結果=開発者・佐野岳人インタビュー

2014年11月19日 10時00分更新

文● 盛田 諒(Ryo Morita)/大江戸スタートアップ

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 ヤフーが19日、スマートフォン向け検索アプリ「SmartSearch」新バージョンを発表した。

 デザインはニュースキュレーションアプリ「SmartNews」を思わせるパネル状に変更。利用者が検索するたびトップページに表示するコンテンツを変化させるなど、パーソナライズを強化した。

 開発にあたったSmartSearch佐野岳人サービスマネージャーは今年3月にリリースした最初のバージョンを振り返り、「評価はいただいたが、日常での利用には至らなかった」と実情を明かした。


共感は得たが、定着はしなかった

 3月当時のSmartSearchは「検索ウインドウが下にある」「横にスライドする」など、パソコン時代、検索で常識とされたルールをすべて逆転させたアプリだった。

 検索ワードの書かれたパネルが並び、検索ウインドウは下にある。検索結果にはページタイトルより大きくサイトのスクリーンショットが並び、一回も文字を入力せず検索結果にジャンプする。

 スマートフォン時代はパソコンの常識を破壊する必要があると考えたが、結果として利用者は趣味人、アーリーアダプター層にとどまった。

 「あのヤフーが検索を変えようとしたというのは面白がってくれた。そういう提案は共感してもらえたが、定着はしなかった」(佐野氏)

 とはいえ失敗ではなく、手応えのある部分を伸ばすのが当初の目的だったと話す。

 「極端なやりかたの方がサービスの性格が見えやすい」(佐野氏)という発想で、当初はあえてターゲットも明確にしなかった。満を持して開発した新バージョンでスマホネイティブ層を狙う。


キュレーションには寄せない、検索はなくならない

 新バージョンで心がけたのは「検索を否定するのではなく、楽しくする」点だ。

 当初のバージョンが定着しなかった理由の1つは、利用者に「検索アプリ」を入れる動機そのものがなかったため。従来の検索は知りたい答えが見つかったらそこで役割を終えるツールであった。検索という行為そのものを楽しめるような体験を作れれば、勝機はあるのではないかと考えた。

 開発に生かしたのは検索だけでなくヤフーが強みとするリアルタイム検索やYahoo!ニュース。急上昇ワード、Yahoo!ニューストピックス(ヤフトピ)、ソーシャルで話題になったワードの3種類を情報源に、流行している検索ワードを表示。検索結果にはニュース、画像、動画などを並べて表示。眺めるだけで楽しめるようにした。

 時事ネタ・芸能ネタなどワイドショーに出てくるようなトレンドワードが多いのが特徴で「だらだら見たい」(佐野氏)というニーズがあった。ページの閲覧時間も長く、ウェブ検索の倍だという。

 検索ワードからすぐ目的のページにたどり着くのではなく「面白そうなところを探ったり、興味の対象を中心にして遊べるような」(佐野氏)作りで回遊を増やす。検索ウインドウも上に戻した。既成概念を否定するのではなく、検索をきっかけに興味が広がるような形にした。

 検索行為によるパーソナライズ機能についても「検索するときの興味はすぐに変わるもの」(佐野氏)という考えから、端末をシェイクしてリセットできるようになっている。

 検索はいわばリンクのキュレーション。コンテンツキュレーションには同社の「Yahoo!ニュース」や競合アプリがあるが、SmartSearchでトップページの次に表示するのは検索結果にこだわった。利用者が楽しむのはコンテンツではなく検索で「キュレーションには寄っていかない」と佐野氏。

 ニュースキュレーションのグノシーは「検索排除」を標榜し、ニュースを拠点としたポータルの座を勝ち取ろうとしているが、SmartSearch側にキュレーションメディアへの対抗意識はない。

 「検索行為がなくなるという論はあるが、興味を持ったら調べに行くという行為そのものはなくならない、と感じている」(佐野氏)


野望はいろいろ まずは地盤固めから

 今後はパーソナライズ要素を強め、位置情報の提供に同意したユーザーには「六本木 ラーメン」ではなく「ラーメン」と検索するだけで近隣のラーメン屋のクチコミやまとめを表示させたいという。

 一方、情報をいたずらに取得するのは逆効果だとも考えている。

 「SmartSearchでは、『ユーザーを理解しつくす』考え方はしたくない。いつの間にか自分の住所を知られていたりすると引いてしまうところがある。ユーザーがコントロールできて、安心感ある形で導入したい」

 そもそもSmartSearchが作られたきっかけはスマートフォン向けに検索ビジネスを変えなければならないという思いから。

 アウンコンサルティングによれば、検索市場の国内シェアでヤフーはグーグルをおさえて49%の首位。検索連動型広告の売上は2014年度第2四半期だけで382億円、ヤフー最大の収益源だ。

 しかしIT業界は市場環境の変化が速く、スマートフォンで起きた変化に即応出来なければいつベンチャーに足元をすくわれてもおかしくないという危機感があった。

 スマートフォンでは広告のプレイヤーも変化している。現在はまだ広告を入れていないが、検索と連携したクーポンサービス「けんさくーぽん」と連動させるなど、導入に向けた布石は打っている。

 「検索連動型広告もスマートフォンでは急成長するビジネスではなくなった。今の成長が永遠に続くとは思っていない」(佐野氏)。ウェブの延長ではない、新たな広告の形を模索したいと話す。

 2014年4月でのスマートフォンからのインターネット利用者数は4055万人(ニールセン調べ)。スマートフォン利用者の73%がヤフーのサービスを利用している。まずはそのうちの1割の利用者に使われるサービスを目標に、今後はヤフーが展開するアプリ間の連携を強めるなど工夫していきたいという。

 「新しいサービスやビジネスが形になるまで、今は地盤を固めているところ。野望はいろいろあるので、楽しみにしていてほしい」


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