間接音の再現性が増えるから、ハイレゾでは空気感を感じる
より現実に即した形で言うと、収録されている音には必ず2つの側面があります。ひとつは“楽器の音”です。もうひとつが“ホールの音”です。“楽器の音”を聴くときには楽器だけではなく、必ず“場の音”として聴くわけです。直接音と間接音と言います。
まず直接音があり、これが360度に放射されて、天井にいき、床にいき、数次の反射があって、いろんなところを回折しながら、反射音が耳、つまり聴衆にやって来るわけです。その間にホール壁の素材の音が加わるわけです。
ここではより高い“倍音領域”※の再現が重要となります。楽器でも声でも同じですが、音には必ず倍音というものが含まれています。その倍音のあり方が音色を決めます。ハイレゾであれば、はるかに高い音域まで再現ができるため、CDよりも遥かに多い倍音が取れるでしょう。
※楽器などの音色は、含まれている倍音の割合で決まる。倍音とは音の高さ(基音)より2倍、3倍……の周波数を持つ成分。弦楽器や管楽器などの音色は基音に対してどのぐらいの割合で倍音が入っているかで決まる。フルートは倍音が少なく正弦波に近いシンプルな波形、バイオリンは倍音が豊富で複雑な波形となる。ちなみにハーモニーなどで実際に歌っていない高音が聞こえることがあるのも倍音があるため。
ハイレゾでは間接音の再現が高まります。これは実際に会場で生の演奏を聴いている感じにさせる要素ですが、ここのクオリティーがCD、もっと言えば圧縮との大きな違いになるわけです。なぜなら、MP3などの圧縮は、この間接音を省くことでファイルサイズを小さくしているからです。間接音がなくなっても、どんな音かはそれなりに分かるのですが、雰囲気はかなり削がれますね。
よくハイレゾの評価の中で“空気感が出る”とかいうのは、生の演奏会場で発生している響きをすごくよく取り込めるからですね。演奏会場で聴衆が聞いている、直接音と間接音のどちらも多い情報量で収録できるのがハイレゾです。だからCDなどの音とは本質的に違うものになるんです。
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