モジュール化で浮上した冷却問題を
液体に基板を浸すという力技で解消
モジュール化で信号遅延を解決したCRAY-2であるが、これは必然的に「どう冷却するか」という問題を惹起することになった。なにしろ1インチ(2.54cm)の高さに基板とICを8層分積層してるわけで、冷却用の空気が流れる隙間がほとんどどない。
そのうえモジュールの消費電力はバカでかく、放置したら火を噴きかねない。だいたい4.1ナノ秒というサイクルタイムは当時のICではかなりぎりぎりのところで、温度が上がりすぎると特性が悪化して4.1ナノ秒では間に合わなくなる。
これの解決が液冷である。本体の背面におかれた水色の筒には、3Mが開発したフロリナート(関連リンク)というフッ素系の不活性液体が格納されている。このフロリナートをモジュールに通すことで冷却しようという仕組みだ。
CRAY-2の外観をもう一度見ていただくと、Cの字をした本体にモジュールが格納され、全体がやや青みがかっているのがわかるが、これは本体がまるごとフロリナートに浸かっていることを示している。
本体の上蓋を開けた写真を見ると、まるごとフロリナートで満たされているのがわかるだろう。ちなみにタンクの方は途中で設計変更があったようで、1988年のカタログでは右下のような写真になっている。
ついでに微妙にスペックも変わっており、1985年のカタログではタンク容量が200ガロン(約757リットル)だったのが、1988年のものは250ガロン(約946リットル)に増えている。要するに、200リットルではやや冷却には十分ではなかったのだろうと思われる。
ちなみにこの「ECL採用・3次元積層モジュール・液冷」という方針が定まったのは1982年のことらしい。
余談であるが、このフロリナートはとてつもなく高価。この当時利用されたフロリナートがどの種類のものかはわからないが、たとえばFC-72(沸点56度)の価格は1.5Kg(約900ml)で3万5千円程度で販売されている。
さてそのCRAY-2であるが、最終的には27台が販売された。価格は1200万~1700万ドルの間で、1985年の為替レート(221.09円/ドル)で換算すると26.5億円~37.6億円といったところ。
CRAY-1と比較すると倍程度の価格で性能が10倍、ということになるからお買い得になるのだろうが、実際にはCRAY-2と並行してCRIで開発されたCRAY X-MPが最大の競合になった。
ピーク性能ではCRAY-2が圧倒したが、実効性能ではCRAY X-MPより若干上といった程度で、しかもCRAY X-MPはCRAY-1とソフトウェアの互換性が保たれており(CRAY-2はアーキテクチャーは似ていたが互換性はなかった)、さらにCRAY-2より早く、1982年にリリースされた。
CRAY-2の開発は1976年から9年ほど要しており(この半分以上がガリウム砒素や実装方法の検討に費やされたことになる)、開発費を考えると商業的には赤字であった。
CRAY-2に続きクレイはCRAY-3の開発に携わるが、これは次回説明しよう。
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