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イスラエルITいろはにほへと 第11回

イスラエル、サイバーセキュリティーの強さ

2014年10月18日 11時00分更新

文● 加藤スティーブ(ISRATECH)

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イスラエルのIRON DOMEをモチーフにした看板

 イスラエルは国として、サイバーセキュリティーを強化している。当然のごとく、マイクロソフトやアマゾンといったグローバルに展開するテクノロジー企業も、同国のサイバーセキュリティー企業を注視している(Microsoft, Amazon eyeing Israeli cyber-security firms as potential R&D centers )

 サイバーセキュリティー先進国のイスラエルについて、今回は日本とイスラエルのサイバーセキュリティー事情に詳しいある企業のハワード江藤(ペンネーム)氏からイスラエルのサイバーセキュリティーの強さがどこからくるのか、何度か訪問を経て見えてきた現地目線での寄稿をいただいた。

持ち主不明の荷物に注意!

 「このカバンの持ち主は誰だ!」という声に振り返ると、イスラエル・テルアビブ市内でこれから一緒に夕食をする年配の男性がカバンを掲げているのが目に入った。私が、それは先に到着した日本からの同行者のもので彼はいま洗面所に行っている、ということを伝えると年配の男性はようやく安心した表情を見せた。

 そして「もしかしたら爆弾だったかもよ?」と茶目っ気たっぷりに話をしたのだった。日本でも不審物をみかけたら係員に連絡して欲しいという表示をよく見かけるが、実際に連絡する人はかなり少ないだろう。しかし、イスラエルでは連絡するほうが当たり前なのだ、というのを実感した出来事だった。

 上記の出来事は、イスラエルのサイバーセキュリティーの強さと直接は関係ないように見えるかもしれない。しかし、私はイスラエルの何度かの渡航を通じてイスラエルの人々の気質こそがサイバーにおける強さの源ではないかと考えている。

 1つは危険に対して実直である気質、もう1つは上下関係なく忌憚ない発言ができる・受け入れる気質である。ここでは、私自身の実体験に基づいてこれらの気質についてまとめる。イスラエルでの兵役の仕組みや兵役終了後の連携は同国の強さに大きく関わっていると考えるが、実体験に基づくエピソードを紹介する主旨から、これらについては言及しないこととしたい。

街の活気と背中合わせの危険が存在する

 1つ目の気質に関して述べたい。私は、実はイスラエルとハマスの対立が激化しているさなかにテルアビブに滞在していたことがある。恐らく多くの方が逃げ惑うテルアビブの人々の映像をご覧になったかと思う。が、私の見た現実は大きく異なる。ハマスからのミサイルが飛来するとのサイレンが鳴ったとき、彼らは危険に対する基本動作としてシェルターや安全を確保できる場所に一時的に退避したたけだ。

 IRON DOMEに絶大な信頼をおいていたとしても、自身の身を守る行動をするのは彼らにとっては当然のことだったのだろう。その状況を除けばテルアビブ市内はいたって平穏で、むしろ活気があるとさえ言えると感じた。また、現地の方から空港でのセキュリティーチェックは度々見直されているとの話を聞いた。

テルアビブ市の海岸沿い(ヤッフォ側より)

 今回も新しい攻撃手法が見つかり、対策としてそのチェックをしているとのこと。実際、私が空港でのチェックを受けた際にはグループを別々にしてそれぞれに時間をかけて同じ質問をしていた。回答に矛盾がないか、不審な点がないかを確認していたのだと思う。イスラエルでは危険に対して油断せず、現状に問題が見つかった場合は速やかに対応を見直す、というのが当たり前なのだと感じた。

イスラエル流のディスカッションが強さの秘訣

 2つ目の気質に関して。私はテルアビブ滞在中に多くの企業との打ち合わせに参加したが、訪問先のすべての企業でミーティングルーム内にお菓子や飲み物があり、ある企業では軽食さえ出た。そこではお菓子や飲み物を手にしながらリラックスして誰しもが自分の考えを話すことが歓迎された。食べながら話すことは失礼にならない。疑問に思ったことがあればとことん議論する・確認するといった場面に何度も出くわした。

 また、イスラエルの人々はとてもよくしゃべる。サイバーセキュリティーのトピックについて意見交換をする場に参加したとき、私を含め日本人が黙っていたら、彼らからトピックとは関係ない彼らの関心事項について質問攻めにあってしまった。しかし、私が「元のトピックで聞きたいことがある」と切り出すと、「ああ、もちろん。何でも聞いてくれ!」とすぐに話題が切り替わった。

 イスラエルでは自分から言わなければ何も始まらないが、言い始めるとどんどん話をふくらませてくれる、そういう雰囲気があると感じた。

 イスラエルは今も多くのサイバー攻撃を受けている。しかしそこから彼らは闊達に調査や議論を行ない、新たな対策を着実に実行し、さらに強固なセキュリティーを実現し続けるだろう。私にとっては、イスラエルは単にサイバーセキュリティーに強いというよりも、今後もどんどん強くなっていく、というところが重要なポイントだと考えている。

筆者紹介──加藤スティーブ


著者近影

イスラエルの尖った技術に着目して、2006年にイスラエル初訪問。2009年にISRATECHを設立し、毎月40〜60社のスタートアップが生まれるイスラエル企業の情報を日本へ発信し続ける。2012年にはイスラエル国内にも拠点を設立。イスラエルのイノベーションを日本へ取り込むための活動に着手する。ダイヤモンドオンラインにて「サムスンは既に10年前に進出! 発明大国イスラエルの頭脳を生かせ」を連載。


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