市場はインフラから上のレイヤーの戦いへ
続いて議論されたのは、「インフラよりも“上”のレイヤーで、国産クラウド各社はどう戦おうとしているのか?」という内容だ。
単純なサービス内容のIaaSは、コモディティ化によって低価格化競争が進み、すでに市場は飽和しつつある。また、DWHサービスのAmazon Redshiftがエンタープライズで人気を集めるなど、これまで中心だった「オンプレミスからの移行」ではないタイプのクラウド利用が、今後増えていく見込みである。こうした背景から、ASCII大谷は「各クラウドベンダーの戦う土俵が、より上のレイヤーに移ってきているのではないか」と問いかける。
Pivotalの小坂氏も、PaaSプラットフォーム技術を提供する立場から、IT部門の役割認識の変化と、インフラよりも上位のレイヤーが持つ市場としての可能性を説明する。
「現在のIT部門は、IaaSなどコモディティ化した部分はなるべくアウトソース化し、自分たちはよりビジネス貢献度の高いところで勝負したいと考えている。ビッグデータ、ソーシャル、モバイル、クラウドといったテクノロジーを戦略的なかたちで融合した、ビジネスインパクトのあるアプリケーションの構築が狙いだ。この4~5年で、多くの顧客が間違いなくこうした世界にシフトしていくのではないか」(小坂氏)。
インフラより上のレイヤーのビジネスについて、NTT ComやIIJでは、基本的にSIベンダーなどのパートナーとの協業を通じて顧客ニーズに対応していくスタンスだとした。加えてIIJでは、SAPアプリケーションやビッグデータソリューションなどの特定分野では、自社で専門チームを設け、注力しているという。
一方、グループとしてモバイル領域に強みを持つソフトバンクテレコムは、「クラウド+モバイル」をキーワードとした戦略を展開しているという。鈴木氏は、すでにMDMサービス、モバイルBaaS(Backend as-a-Service)などをラインアップしており、今後はグーグルとの協業を拡大して「Chromebook+クラウドサービス」も展開していく方針だと説明した。
エコシステムとパートナーシップ
次のテーマはエコシステムとパートナーシップだ。AWSが国内市場で勢いを増している背景の1つとして、活発なユーザーグループ(JAWS-UG)の存在が挙げられる。現在では全国に45支部を数えるまでになっており、東京でイベントをやれば1000人規模でユーザーが集まる。また、SAPを始めとしてビジネス系ソフトウェアベンダー(ISV)とのパートナーシップも着実に拡大している。
では、今回登壇した各ベンダーのエコシステム、パートナーシップ戦略はどうなっているのか。
IIJ GIOでは今年、パブリッククラウドの「Microsoft Azure」との協業(閉域網接続)を発表している。神谷氏は、このように他のクラウド事業者やISV、SIベンダーとのパートナーシップを通じて、オンプレミスシステムとのハイブリッド連携やマルチクラウド間の連携、さらに各種ソリューションの提供などを進めていくと、方針を説明した。「IIJには、AWSと同じような動きはできないと思っている。違った角度から、ユーザーに対して何ができるのかを考え、サービスを拡充していく」(神谷氏)。
グローバルなサービス展開を目指すNTT Comでは、国内パートナーだけではなく海外のパートナーとの協業にも注力しているという。西岡氏は、現在は直販モデルが中心のクラウドサービスについて、今後はパートナー経由販売へのシフトも進めると語る。
ソフトバンクテレコムでは、同社クラウドを活用してサービス提供を行なう事業者と、同社サービスを販売する事業者という両面で、パートナー拡充を進める方針だという。同時に、今後の“マルチクラウド時代”に備え、他のクラウドベンダーとの提携も進めていくと、鈴木氏は述べた。実際、ソフトバンクテレコムは先月、ヴイエムウェアとの合弁会社を立ち上げる発表を行なったばかりだ。「ヴイエムウェアとの発表のように、今後も世界トップクラスのベンダーとの協業でJV(Joint Venture)を作っていく可能性は多分にある」(鈴木氏)。
国産クラウドが生き残るためには
パネルディスカッションのまとめとして、ASCII.jpの大谷は、少なくともこれからしばらくはAWSの優位は揺るがず、国内市場においてはクラウド事業者の淘汰も進むだろうとの予測を示した。「現在のクラウド事業者は『安く、早く』を追求しているが、それだけでは今後のビジネスは成り立たないだろう」(大谷)。
しかし、一方で顧客側の変化には期待を示した。マルチクラウド利用が増え、優れたクラウドの選択眼を持つユーザーが増えてくれば、特徴的なクラウドサービスを提供するベンダーは生き残れる可能性が高くなる。
国産クラウドも日々進化を遂げ、サービス内容を向上させてきている。「これまで国産クラウドを一度あきらめた方も、ぜひ再度見直してほしいと思う。『勝つか負けるか』の話ではなく、ユーザー自身にとってベストな選択とは何かを注視していってほしい」(大谷)。
(提供:EMCジャパン)