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日本のITと農業がタッグを組めば、TPPは怖くない!

IT農業の推進者が語る「本質はセンサーとカメラじゃない!」

2014年09月24日 09時00分更新

文● 大谷イビサ/TECH.ASCII.jp

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農業×ITは必ずしもセンサーやカメラではない

 ここまで示された数字で明確なのは、農作業に従事する人が少なくなり、耕作地が減っていく中、今後は農家はどんどん法人化し、効率性を追求していくということ。その結果として、企業のような原価や購買の管理は必須であり、システム化のニーズはますます高まるという点だ。実際、農業向けソリューションを展開している大手ベンダーも登場しており、一次産業のIT化として注目を集めている。

 しかし、女川氏はこれまで農業におけるシステムインテグレーションでは数多くのミスが起こってきたと指摘する。たとえば、「湿度は大事ですか」と聞かれたら、多くの農家は「大事」と答えるし、われわれも大事であろうと予想する。だが、湿度の中身を考えると、その定義は両者で違っているという。われわれが考える湿度は、ある気温の飽和水蒸気量を100%として、どれくらい水蒸気量が含まれているかの比率である相対湿度を指すのに対して、農家にとっての湿度は朝に圃場を見た際に散水しないで済むか判断するための水分量を指す。そして農家はこの水分量を数値で把握しているのではなく、経験のデータベースに付き合わせて、いい感じか、悪い感じかを判断している。ここですでに言葉の定義が違っているのだ。

農業におけるシステムインテグレーションのミス

 このミスマッチが悲劇を生む。「プロの農家に湿度が大事と言われると、SIerは湿度センサーを付けてしまう。結果、農家にグラフを持っていって、なんじゃこりゃと言われる」(女川氏)という事態になるのだ。そして、これが繰り返されると、「ITは使えない」「農業はやはり経験と勘」という結論に導かれてしまうという。

 また、農家の仕事は圃場を回ることなので、カメラがあれば、圃場を見ないで済むというのも誤解だという。とはいえ、カメラで先んじて状態を把握すれば、段取りや人の手配を効率的に行なうことができるのも事実。「あくまでも農家の省力化を実現するために、手助けするものをみなさんには作ってもらいたい」と女川氏は訴える。

IT農業に寄与する3つのソリューションとは?

 女川氏はITが農業に寄与できる具体例として、直販サイトやマッチングサイトなどの「売上寄与」、灌水やハウスでの作業を軽減できる「効率寄与」、そして経営数値の明確化や計画生産に貢献する「管理寄与」という大きく3つのパターンを挙げる。

農業生産とITとの関係では3つのパターンがある

 そんな女川氏が紹介したのは、コミュニティで活用している農業専用のSNSだ。なぜSNSか? まず新規の営農者が気軽に相談でき、共通の品種を生育している人を探しやすい。既存の営農者にとってみると、消費者と直接つながることで、販路を拡大できるというメリットがある。実例として女川氏は、1シーズンでとれる1万5000個のフラーチェメロンを通販のみで売り切る北海道の寺坂農園の例を紹介。「東京ドーム1.2倍ある耕作地のメロンを、Facebookの販路開拓のみで売っている。農作物を売るにはSNSは強い」と女川氏は語る。

1万5000個のメロンを予約販売だけで売り切る寺坂農園のSNS活用

 また、前述したデータ収集に関しては、九州大学と九州先端科学技術研究所との連携で、一般の農家で利用しやすい農業データについて研究しているという。「たとえば、二酸化炭素濃度を収集しても、ほとんどの農家はそれらを制御できないので、あまり意味がない。こうしたことを検証して、Facebookで情報を公開・交換している」(女川氏)。女川氏自体もセンサーやカメラを活用しており、後発なだけに散在しがちな圃場の状態を把握できていると説明する。

 理想的な営農支援システムとしては、育成や作業の記録を付けたり、センサーやカメラの情報をアップロードしたり、経験やノウハウを共有。営農に必要なさまざまな分析が行なえるほか、現場で情報を活かせればよいだろう。しかし、せっかく作っても「農作業の途中に入力や過去の振り返りなんて無理。システムインテグレーターのエゴ」(女川氏)というのが実態で、具体的なメリットを感じなくなってしまう。実際にアンケートをとってみると、効率性は認められるものの、使い勝手や作業負荷が大きくて、使い物にならない意見が多くを占めた。今後はTPPが来るのため、作物自体の競争力向上や農場管理もやらなければならないのに、「管理のための管理」のは難しいというわけだ。

(理想とも言える)営農包括支援システムの概要

パソコンやスマホでの入力は、実作業に追われて対応困難

 こういう敷居を下げるには、とにかく入り口である入力部分を改善していくしかない。その実例として、女川氏が披露したビデオが、ChromecastとTVの組み合わせで圃場のカメラ映像を見られるようにしたある農家の様子。女川氏は、「おじいちゃんに、自分の圃場が見たくなったら、ビデオ入力をとにかく変えてみてと説明する。TVというだけで、突然おじいちゃんでも使える。裏の仕組みを農家の人に教え得る必要はない」とアドバイスする。

 女川氏は農家の立場でIT側の人たちに訴える。「みなさんと協力しながら、日本の農業を強くしていきたい。もともと日本のITは強いわけだから、その日本のITが日本の農業に力を貸してくれれば、TPPどんとかかってこいという勝負の仕方ができる」と訴え、セミナーを締めた。

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