仕入れ作業をシンプル化するSHIPSと発注点を算出するAPIM
受発注システムのオープン化とは、オフコンからオープン系システムへの移行を指す。具体的には、オペレーションをシンプルにする「SHIPS(Sunco High Performance System)」、発注点を算出する「APIM」などの独自システムを導入した。
2012年に導入されたSHIPSは、今まで数多くのメニューで構成された受注発注システムを改修したものだ。SHIPSの導入により、オペレーターは当日アクションが必要な商品が自動的に抽出される「ToDo」、仕入れ先回答待ち状態の「パッシブ」、そして「エラー」の3つのタブで作業ができるようになった。奥山氏は「今まで、新入社員の教育にえらいひま(時間)かかってたんです。実際、操作を覚えるのが大変で、心が折れ始めている子もいました。せやから、ちょっと教えたら使えて、流れさえわかれば、自分で調べられるような仕事にせなあかんなと思ってました」と導入の背景を語る。
また、2013年には適正在庫と発注点を算出するテクニカルソリューションズのAPIMを導入した。これはどれくらい在庫数が減ったら発注をかければよいかを算出するシステム。仕入部門のシステム導入を手がけてきた平岡美紀氏は、「今までは一人あたりのアイテム数が非常に多く、仕入れ作業が属人化していました。確かに誰がやってもできるんですけど、適正かどうかは個人によって差が出ていました。そもそも上手、下手という判定が誰にもできませんでした」と課題を振り返る。
これに対してAPIMでは従来の正規分布と異なるモデルで、より高い精度で安全在庫と発注点を算出する。発注判断に必要な情報をすべて一覧できるユーザーインターフェイスも用意され、オペレーションもわかりやすくなった。平岡氏は「在庫日数を極力適正化していくのと、今まで属人化していた仕入れ作業を数値化することで、誰がやっても差がなくできるようにしました」と語る。
SHIPSとAPIMの効果はきわめて明確だ。2011~2014年の間、担当者の人数が15名とほぼ変わっていないにもかかわらず、アイテム数は45万から56万に拡大。当然、一人あたりの取り扱いアイテムは24%増加しているという。「アイテム数が増えたにもかかわらず、欠品も44%減、在庫日数も7%減っているので、けっこう大きな効果を得られています」と平岡氏は語る。
とはいえ、オフコンからオープン系システムへの移行は、現場の反対やとまどいも大きかった。たとえば、発注点を提示するタイミングの違いだ。「オフコンの時は30分おきに在庫の発注点を出していました。つまり、ほぼリアルタイムです。でも、SHIPSは前日の荷動きを見た後、朝イチで発注すべき商品がリスト化されます。ですから、なんでシステムが新しいのに、一日前の発注リストが出てくるんやという批判意見になるんです」(平岡氏)。しかし、30分ごとの発注点は、補充抽出作業のために商品箱が倉庫から運び出されたら、在庫なしと表示されてしまう。これに対してベテランの仕入れは、メニューを駆使して社内の物流を調べ、実は在庫があることを探してしまう。そのため、リアルタイムの更新に対して、スキルの差や属人性が発生していたわけだ。
一方、前日の荷動きをベースにしたSHIPSの場合、在庫は確定している上、1日の仕事量が朝の時点で確定している。「はじめてみたら、最初からToDoが出てきた方が計画的に動けてよかったという意見が出てきて、うれしかったです」(平岡氏)。
長年、物流のプロとして同社のシステム開発・改修に携わり、今回、オープン系システムへの移行を行なったオーシーシー情報センターの宮本裕嗣氏は、「メニューをいっぱい切り替えていて、僕らからしてみれば、どう見ても使いにくそうなんだけど、サンコー様ではそれが当たり前という感じでした。うちもオープン化するにあたって単に載せ替えるだけではしょうがないので、オペレーションの簡略化やメニューのシンプル化を目指しました。でも、気がつくと元の業務に戻す方向性に話が進んでいくんです」と苦労を語る。いろいろ調べていくと、システム改修のごとに隠れた業務が作られており、これらを見出すのが大変だったという。
奥山氏は、「SHIPSにせよ、APIMにせよ、新しい仕組みを入れる時は、なんでそんなことせなあかんのですか?という言い合いは、つねに出てきます」と、こうした現場との戦いはつきものだと語る。
(次ページ、「どんだけ売れるかわかったら、ええねんけどな」の一言)
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