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まつもとあつしの「メディア維新を行く」 第48回

セルフパブリッシングの未来(7)

スマホ時代の無料コミックのデファクトとなるか?――comicoの戦略を聞く

2014年10月05日 09時00分更新

文● まつもとあつし

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「投稿オンリー」でなぜここまで支持が拡がったのか?

―― 既存の漫画誌や電子マンガが「編集」に拘るなか、真逆を行ったわけですね。にもかかわらず、どの辺りがユーザーに支持されたと捉えていますか?

稲積 「まずは、スマートフォンに最適化した点が第一に挙げられます。カラーで縦スクロールであること。また、紙=印刷という制約がありませんので、毎日10本以上の“連載”が読めます。そのボリューム感も支持されているのではないでしょうか」

夜宵草さんにメールインタビュー その3

Q:縦スクロールマンガへの戸惑いなどはありましたか?

夜宵草 「最初は大変戸惑いました。どう作品を作っていいのか、まったく分からなかったです。試行錯誤して、自分の作品を見返したり、他の作家さんの作品を見ているうちに、1画面に収まるコマ数や間などがつかめてきました」

―― 表現という面ではいかがでしょうか? 紙の雑誌や単行本では難しい、あるいはニッチな表現がウケているという面はありませんか?

稲積 「正直我々では判断が難しいのですが、投稿を起点とした結果、様々な作品が揃うことにはなっていると思います。読者の皆さんにとっては“自分に合ったもの”“自分がまさに読みたかったもの”を見つけることができているのではないでしょうか。

 さらに言えば、コメント欄を通じて作者と読者が直接・間接にコミュニケーションを取っていますので、よりその傾向(読みたいものが読める)が強まるということはあるかもしれません」

夜宵草さんにメールインタビュー その4

Q:作品に対するユーザーからの評価やコメントは、作品にどのような影響を与えていますか?

夜宵草 「あたたかい声援が本当にありがたく、モチベーションが上がります。また意図が伝わっていない部分もコメントを通して知ることができ、後の回で補足するなど、緩やかな意見交換がとても役立っています」

―― 確かに、『ReLIFE』の作者、夜宵草さんからも上記のようなお返事をいただいています。

稲積 「完全に読者さんのコメントで展開を変えてしまうと、特にストーリーものは後々リカバリーできなくなってしまう危険性もありますので、ちょっとそこは留意いただきつつですが(笑)。投稿後にコメントを受けて後の回で補足したり、修正を加えたりという作家さんもちらほらおられるんですよ。

 Facebookの“いいね!”のような“ハート”アイコンが押された回数によって、各話ごとに読者が支持した数もわかります。これによって、モチベーションも上がりますし、どんなエピソードが好まれるのかも分かるというわけです。

 このあたりは、私たちがオンラインゲームをずっと手がけてきたノウハウが活かされる部分だと思っています。作家さんと読者同士のコミュニケーションによって、コンテンツの価値が高まっていく仕組みをこれからも構築していきたいと考えています」

オススメマークは作者のモチベーションアップにつながるだけでなく、話数ごとの人気度も測定できる

著者への還元はどう図られる?

―― セルフパブリッシングについて様々なサービスや人々にお話を伺っています。そんななか、モチベーションの源泉ともいえる金銭的な還元、そして収益まで至らない作家をどう育成していくのかは重要なテーマです。

稲積 「まず、公式97作品については、月額20万円の原稿料のお支払いを保証しています。その上で、読者からの人気などトラフィックに応じてインセンティブをお支払いする形です」

―― まさに週刊連載というイメージですが、週刊誌・月刊誌の場合は連載ページ数や原稿料が作家ごと、あるいは雑誌ごとに決まっています。たとえば“1ページ1万円で毎号18ページ”など。縦スクロールのcomicoの場合はどのような設定になっているのでしょうか?

稲積 「目安として最低30コマを投稿してください、というお願いは設けてあります。でも、実際のところは、みなさんもっと長く(多く)描いていらっしゃったりしますね。コマ数の多いほうが読み応えもあるためか、そういった作品は人気が出る傾向にあります。

 週刊誌連載の場合は、1号あたり18ページくらいとなっているようですから、1ページあたり平均4コマだとしても70コマは超える計算になると思います」

―― 週刊誌連載で換算するとcomicoは半分以下ですが、その代わりフルカラーなので、塗る作業も発生しますね。

稲積 「作風によりけりですが、基本的にはきちんと塗っていただくことが前提になります。テレビがカラーになったら、番組もカラーでというイメージですね」

―― 電子コミックの世界でも、ONE PIECEや進撃の巨人のフルカラー版がキラーコンテンツになっていたりしますが、それに通じるものも感じますね。原稿料としての20万円+インセンティブですが、その原資はどこから?

稲積 「広告表示なども行なっていないので、現在のところ持ち出しですね(笑)。将来的には体験型広告のような仕掛けを入れる可能性もありますが、まずはプラットフォームとしての魅力を高めていく――つまり、読者と投稿する作家さん・作品を増やしていくことに専念する投資のフェーズだと考えています」

―― ももクロを起用したCMはインパクトがありました。

稲積 「スマホで読みやすいというメッセージを端的に伝えたいと思いました。スマホで楽しめるマンガサービスのナンバーワンを目指していきたいという目標があります」

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