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販売促進のキーマンが語る国産PCサーバー誕生秘話と革新の歴史

顧客の声からこだわりは生まれる!Express5800の20年を探る

2014年09月17日 15時00分更新

文● 大谷イビサ/TECH.ASCII.jp 写真●曽根田元

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NECのPCサーバー「Express5800シリーズ」が2014年11月で20周年を迎える。コンパックショックの吹き荒れた1994年に産声を上げ、1996年以来18年に渡ってシェアNo.1※を獲得し続けているExpress5800の20年を販売促進のキーマンに振り返ってもらった。(インタビュアー TECH.ASCII.jp 大谷イビサ)

君の名は? Express5800の誕生をひもとく

 Express5800が生まれた1990年代は、オフコンからオープンシステムへの移行が一気に進んだ時代だ。コンパックによって1000ドル以下のPCが投入されたことで、業界全体が低価格競争に巻き込まれた「コンパックショック」が吹き荒れ、Windows 3.1がMS-DOSからの移行を強力に促進していた1994年11月、NECが市場に投入したのがPCサーバー「Express5800シリーズ」だ。

 Express5800の誕生は、1993年米国で開催されたコンピューター関連イベントの「COMDEX Fall 1993」で同社のRISCサーバーが賞を獲得したのがきっかけだという。Express5800の誕生当時から販促やプロモーションを手がけてきたNEC プラットフォームビジネス本部長代理 寺村康伸氏は、「当時、Windows NTはさまざまなCPU上で動くのが1つの売りでした。そこで米国の部隊が作ったWindows NTが動作するMIPSサーバーを開発し、その性能が評価されたのです」と振り返る。このようなオープン化の流れを捉え、今後Windowsサーバーが業務用サーバーとして急速に発展していくと確信していたNECは、この米NEC産のサーバーを国内に持ち込み、Intel CPU搭載機を追加して、市場に投入。これが初代Express5800シリーズである。

NEC プラットフォームビジネス本部長代理 寺村康伸氏

 では、なぜExpress5800という名前になったのか? 寺村氏によると、シリーズのネーミングを設けたのは非常に珍しいという。「企業向けの商品は、Nに数字を加えるような無味乾燥な型番でした。でも、他社商品はネーミングバリューがあったので、なにかインパクトのある名前が必要でした」(寺村氏)。

 ここで生まれたのが、先進性やスピード感を表わすExpressという単語。これにUNIXサーバーの「EWS4800」やパソコンの「PC-9800」など、オープン系商品の連番に倣った5800を加えることで生まれたのが、「Express5800」だという。「私の先輩も含め、Expressという名前にはみんな思い入れがあり、単なるハードウェアではなく、先進性を追求したどこか擬人化したような存在と感じていました」と寺村氏は語る。

世界初と顧客の声にこだわったExpress5800が目指したもの

 Express5800シリーズは、当初から単なるコンピューターとは異なる高みを目指して開発された。「PCサーバーはCPUもメモリも同じ規格を使っていますし、各社でラインナップも似通っています。お客様から見れば、他社商品とどこが違うのか問い続けられる宿命にあるんです」(寺村氏)とのことで、とにかく世界初、業界初にこだわって商品化を続けた。この発想は、最新技術と商品をいち早く市場に投入する「Time to Market」につながっていく。商品についても、施策についても、Express5800シリーズはつねにこのTime To Marketを意識してきたという。

 さらにサーバーの根幹的な要素である信頼性。今となっては信じられないかも知れないが、1990年代のPCサーバーは業務システムを任せられる存在とは考えられていなかった。UNIXサーバーのベンダーからは、コンシューマー向けのPCのアーキテクチャで安く作った「おもちゃのような存在」と言われ、信頼性を求められる基幹系システムの分野では相手にもされなかった。

 こうしたプレッシャーをNECは技術ではねのけてきた。汎用アーキテクチャならではの技術的な制約、市場での高いコスト圧力と短い商品開発サイクルなど、さまざまな制約の中、NECはスパコンやACOSなどハイエンドサーバーのノウハウや製造技術をPCサーバーに応用し、止まらないサーバーを作り上げた。また、当初からUNIXサーバー譲りの技術を用い、業界初のPCサーバーでのクラスタリングを実現。

 そして“止まらない”を追い求めた結果として、2001年5月にはストラタスとの共同開発でPCサーバーでは世界初となる「ftサーバ」を発売した。Fault Tolerantを冠するとおり、ftサーバでは徹底したハードウェアの冗長化を施したことで、事実上無停止でサーバーを継続的に動作させることが可能だ。「日本のニーズにあわせた、日本のftサーバができました」(寺村氏)とのことで、製造業の生産ラインや倉庫、港湾・水道をはじめとする社会インフラの制御システムなど、システムを止めるのが難しい、止まると困るようなところに採用されている。

コンポーネントの冗長化で事実上の無停止を実現した当時のftサーバの広告

 こうしたエッジの効いた商品を開発するのにあたって心がけたのが、とにかく顧客と販売店の声を聞くこと。高い集積密度や省エネを意識したデータセンター向けサーバー。静かで、場所をとらない事務所向けのスリムサーバなど、スタンダードなラインナップから外れたこれらのこだわり商品は、顧客や販売店の声から生まれた。

「顧客や販売店からいただいた声を元に、数々のこだわり商品が生まれました」(寺村氏)

 寺村氏は「顧客や販売店からいただいた声に、NECならでは市場分析を加え、商品やサービスに反映させていく。このフィードバックのサイクルをスピーディに回すのが、NEC流です。外資系のベンダーではなかなか真似はできません」と語る。

(次ページ、【1994~1998年】オープンシステムの旗手としてNo.1を目指す)


 

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