それでもシャープが撤退しない理由
それでも撤退しないと宣言する理由はどこにあるのか。
高橋社長は次のように語る。
「シャープにとって、今後のことを考えると、ほとんどの事業において、通信技術を抜きには考えにくい。通信技術は、スマートフォンのみならず、白物家電や自動車、ロボットの世界でも非常に重要になっている。通信技術を活用することで、様々なものと連携。ビジネスの拡大が期待できる。今後も、スマートフォンを含めた通信事業を、中核事業のひとつと位置づけていく」とする。
シャープは、ソフトバンクモバイルおよびスプリントとの共同開発で、「アクオス クリスタル」を製品化。日本および米国市場向けに投入することを発表した。
「アクオス クリスタルは、シャープの要素技術を結集したフレームレス構造を採用することで、今までにない視覚体験を提供することができる。また、ハーマン・カードンのスピーカーを同梱し、クリスタルサウンドによる高音質な音楽や動画を楽しむことができる。日本と米国において、多くのユーザーのコミュニケーションツールとして利用してもらえることを期待している」と語る。
かつて携帯先進国であった日本が、技術を再び磨くチャンス
今回のアクオス クリスタルは、米国市場にスマホで再参入するという点でも、シャープにとっては重要な意味がある。
「いまから10年以上前までは、日本の携帯電話は最先端市場であった。しかし、3GやLTEになるに従い、キーとなるコアコンピタンスがほとんど米国に移ってしまった。いまや、様々な通信の進化、新たな技術は、米国が先行している。今回の米国市場への4年ぶりの再参入によって、当社の通信技術をどのように磨いていけるかが一番のポイントである。最先端技術に厳しい米国で揉まれていく必要があると認識している」と高橋社長。
シャープは以前、米国市場向けに「サイドキック」という端末を投入した経緯があり、その延長線上で、マイクロソフト向けに「KIN」という端末を納入したこともあった。
「かつては、米国の厳しい市場では戦っていくことはできなかったが、今回、ソフトバンクとスプリントには、非常に大きな機会を与えていただいた。米国には巨大な企業もいるので、簡単でないことは百も承知している。だが、このチャンスを活かして、スマホだけではなくすべての商品で世界と戦っていける通信技術を磨いていきたい」とする。
2社との共同開発によって、一定の出荷数量が見込めることは、米国市場へ再参入においては、シャープにとって追い風だ。
社長就任以来、通信事業は将来の事業にとって非常に重要な分野だと繰り返してた高橋社長。その通信事業に弾みをつけるためには、日本および米国におけるアクオス クリスタルの成功は重要な鍵になる。
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