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緩やかな死を迎えつつあるホスティング業界で生き残るために

さくらの田中社長はなぜJAWS-UGでマルチクラウドを語るのか?

2014年09月01日 06時00分更新

文● 大谷イビサ/TECH.ASCII.jp 写真●曽根田元

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さくらの強いところ、AWSの強いところ

 このようにマルチクラウドの提案は、自社サービスとAWSのサービスに対する優れた洞察があるからこそ実現している。自ら触って、サービスのよしあしを判断できるのは、ユーザー目線を持ったエンジニア社長の真骨頂といえるだろう。

 田中氏はさくらのクラウド、VPS、専用サーバについて「AWSもi2インスタンスのようなコストパフォーマンスのよいものも出ているが、基本的にはさくらのクラウドの方が価格性能費は高い。VPSはなにしろ安いし、性能面でいえば専用サーバが圧倒的」とアピールする。

 一方で、「さくらのサービスはすべて国内にしかないし、サービスの幅ではAWSの方が優れている。ストレージに関しても、国内の場合20~30円/GBだが、S3の場合、3円/GBくらいなので勝負にならない。しかも使った分なので、無駄がない」とAWSの優位点も認める。

さくらの各サービスとAWSとの比較

 また、一般論として海外のクラウドは使った分だけきちんと支払うフェアユースの考え方を強いが、国内は転送量やCPUの制限が厳しくないという特徴がある。こうしたコンセプトの違いは性能面に現われる。田中氏は、「言い方は悪いですが、AWSは安定して遅い。だから、安定的なリソースが必要なら、やはりAWS。国内クラウドは速いけど、遅くなるときもある。バッチ処理やWebサーバーであれば、CPU性能の出しやすい国産クラウドの方が有利」と指摘する。特にWeb系の会社は転送量制限に気をつけながら、サービスを使い分けるべきだという。

 こうしたマルチクラウドの案件や事例は緩やかながら増えている。たとえば、ニュース配信サービスのスマートニュースはコンテンツ蓄積にS3、配信サーバーにさくらのクラウドを採用している。「1社ではいやだというお客様は意外と多い。さくらだけでNGという会社もあるので、アフィリエイトで他社のクラウド売ろうかと思うくらい(笑)」とのことで、今後はますます事例が拡大していきそうだ。

ホスティング業界は緩やかな死を迎えつつある

 田中社長がこうした積極的なロビー活動を展開する背景には、やはりクラウド事業者との熾烈な競争がある。ホスティングビジネスにおいても売上が頭打ちになる中、各事業者はソリューションやセキュリティ、SIなどに活路を求めている。田中氏は、「ホスティング業界は緩やかな死を迎えつつある。ピークアウトすると、固定費が多いので、いきなり利益が減る。しかもストックビジネスの場合、利益率がいいため、危機感の醸成に時間がかかる。なかなか対策を打てていない」と警鐘を鳴らす。

 当然、さくらインターネットもこうした現状の中、ビジネスを確保・成長させなければならない。「今後、レンタルサーバー業界はかなり厳しい。海外クラウドベンダーとの戦いにおいても、ドメスティックな事業者は2~3社しか残れない。われわれはそこにきちんと残っていく必要がある」(田中氏)。

 こうした中、圧倒的なパワーを持つ海外クラウドベンダーに対しては、ピンポイントなゲリラ戦とアライアンスを基本に据える。「スタートアップに強いとか、インスタンスの性能が高いとか、北海道にサーバーが置けるとか、とにかくニッチなニーズを確実に拾っていく。マイクロソフトなどとも手を組んでいく」(田中氏)。JAWS-UGでの活動もある意味こうしたゲリラ戦の一環といえる。

「とにかくニッチなニーズを確実に拾っていく」(田中氏)

 一方、国内クラウドベンダー、ホスティング事業者に関しては、サービスのビジョンが近視眼的で、コスト面でも安価であるため、競争優位性を確保できているという。「国内のクラウド事業者が辞めた時にも、さくらが受け皿になれる」とのことで、先日は終了予定のOCNのPage ONの移行先にもなった。危機感を持つ他社からの相談は増えており、今後こうした例も増えてくると予想する。

 とはいえ、他社のようにSIerとして生き残るつもりはない。「システムを請け負って、開発するような人月商売をしないのは、さくらのアキレス腱でもあり、アイデンティティでもある。だからIaaSで生き残っていく選択をしている」。そのため、レンタルサーバー事業で得た収益を、自社のデータセンターに投資し、そのデータセンターで自社サービスの原価を下げるという競争戦略をとる。「クラウドだけで儲かる、儲からないの話ではない。インフラをしっかり持って、上位レイヤーのマルチテナントできちんと稼ぐという全体最適の中で考えている」(田中氏)。

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