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デジタルノートを超えたその先にあるもの

清水CEO自らが語る、enchantMOONとは何だったのか?

2014年08月30日 12時00分更新

文● ユビキタスエンターテインメント代表取締役社長 清水亮

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アナログとデジタルの触媒としてのコンピュータ

 次々と便利なデジタルデバイスが登場したとしても、私たちが紙を捨てられなかった理由は、アナログI/Oを持ったデジタルコンピュータである私たち人間にとって、アナログとデジタルの橋渡しをする触媒が必要だったからです。そのかたわらで、手書きコンピュータは望まれては消えの繰り返しの歴史でした。 それでは、私たちが手書きノートをデジタル化することのどの部分に夢や価値を感じていたのでしょうか。簡単に思いつくところで言えば軽量化や管理の側面辺りでしょう。しかし本当に重要なのはアナログとデジタルのより深い融合です。

 一つはアナログな試行錯誤作業から、デジタルな構造化へのシームレスな移行を一つのデバイスで実現すること。

 紙のノートだと途中までしかできないことが、手書きコンピュータだったら、それを他の機械に持っていくことなくシームレスに頭に思ったアイデアを実際のプロダクトやコンテンツに昇華させていくことができる可能性がある。これがとても重要なことです。そして今のところ私はアナログとデジタルの融合を果たす鍵は、アイデアから実際のプロダクトに至るまでの人間の知的生産全体をプログラミングというフレームで捉えることなのではないかと考えています。

 今、我々はプログラミングと文章を作ること、絵を描くことなどを全てバラバラのことだと思っている。しかし人類が昔から持っていた色々なもの、管理の仕方、まとめる手段、構造化する方法、考える手順、これらのプロセスを純化したものがプログラミングだと捉えるれば、アナログとデジタルという垣根が無くなり、更にスムーズにアイデアをデジタル化していくことができるのではないか……まだまだそれは答えが出るまで時間がかかりそうですが。

 「enchantMOONはノート端末ではなくてプログラミング端末だった」と言った理由は以上のようなことにあります。つまりこの論において私にとってはモレスキンもキャンパスノートも「アナログからデジタルを産み出すためのプログラミングツール」なのです。

 この発見は大きかったと思います。

 しかし考えてみれば当たり前のことなのです。複雑なプログラムや大胆な企画を立てる時、ホワイトボードやノート、なんでもいいですが手書きできるものが必ず必要です。私が3年ほど前、タイのパタヤビーチで一夜にしてスマートフォン向けプログラム開発環境を作らなければならなくなったときも、真っ先に探したのは紙とペンでした。それがなければ、自分の考えを短期間にまとめることなど到底できない、と思ったのです。

 プログラマーは手書きのノートが大好きです。なぜならそれは、プログラミングツールそのものだからです。そしてあらゆる知的生産活動では、手書きが効果的に機能するでしょう。それを一番良く知っているのは、当のプログラマー達です。

 こうした視座に立つと、enchantMOONの本質的な価値は最初に想像したものとは全く異なるものであることが解ります。それはもっと大きく、壮大なものです。人類全体の生産性を大きく底上げする可能性がこのパラダイムにはあるのです。

 ひとつのヒントとして、私はenchantMOONを用いた短時間のハッカソンを行っています。enchantMOONを用いると、ハッカソンがとても短時間で行えます。アイデアを形にするまでの時間がとても短いのです。

 たとえば15分といったとても短い時間でも、いくつものアイデアを思いつき、形にすることができます。1時間あれば、もっと熟孝した上でより効果的な作品が作れるでしょう。このハッカソンにおける生産性の高さ、というのは、enchant.jsでも得られなかった効率性です。enchant.jsでは9分ハッカソンをよく行いましたが、それはキータイプを行うのがせいぜいでした。また、些細なミスで全体が動かなくなるなどの問題がありました。キーボードからタイプするプログラミング言語では必ずこの問題にぶち当たります。

写真は2014年03月14日、「enchantMOON S-II」の記者会見の様子。清水CEOは過去に、自身が受け持つ大学の学生にenchantMOONを1カ月間貸し出し、使い方を分析している

 しかしenchantMOONを使い、手書きとブロックによるプログラミングを組み合わせれば、もっと効率的かつ効果的にアイデアを形にして人に見せることが出来るのです。同じ時間でより効果的にアイデアを形にできるとしたら、enchantMOONは単なるデジタルノートを超えた存在になる可能性があります。 このハッカソンを私はあちこちの学校や職場で試してみたいと考えています。手始めに、9月に慶應大学湘南藤沢キャンパスで、10月に関西大学と新潟県長岡市で、enchantMOONを貸し出してハッカソンをやってみるつもりです。

 この実験の目的は、つまりenchantMOONが人間の思考そのものを補佐し、拡張できる可能性を持っているかもしれないということです。しかも特別な訓練を必要とせず、誰もが自分のアイデアを自由にプログラムとして表現できるのです。それはこれまでの紙のノートの領域を超えるものです。紙のノートが元々もっていた機能、つまりアナログ的なものをアナログ的なまま書き記す、という機能と、アナログ的なものの一部にデジタル的なもの(文字・数字・記号)を混ぜる、という機能に加えて、論理構造(ハイパーリンク)や制御構造(プログラム)まで扱えるようにしたとき、それは単なるデジタルノートという理解を超えた存在になっていくはずです。

 プロジェクト開始から二年、発売から一年が経過し、私は改めてこの新しいパラダイムの持つより広く大きな可能性の確信を深めることができました。

 enchantMOON、この道のりはまだ遠く長いものですが、今後もどうか暖かい目で見守っていただければと思います。

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