赤字覚悟で物理店舗にアプローチするAmazon
ポイントはやはり情報か?
そのような状況の市場に今からAmazonが参入する。もちろん後発だが、Amazonには切り札がある。価格だ。
上述のようにSquareの手数料は2.75%、PayPal Hereは2.7%。対するAmazonは1.75%である。ローンチを記念した限定オファーではあるが、キャンペーン終了後も2.5%と業界最低ラインだ。これを受けて他社が料率の下げに踏み切るかどうかは様子見だが、Squareの2.75%で、やっとわずかな利益がでるレベルなのだ。関係者の多くはAmazonの1.75%は赤字必至と見ているようだ。
赤字覚悟でも大きな戦略から見てメリットがあると判断すれば、事業化に踏み切るのがAmazonの特徴だ。好例が「Kindle Fire」で、この場合は端末上で利用するコンテンツで収益を得るという狙いがあった。
ではAmazon Local Registerではどうなのだろうか。Amazonの狙いは物理的にショップを構える小規模の小売店だろう。書籍から家電やファッション、食品まで、オンラインで販売できるものはなんでも売るAmazonだが、オンラインとオフライン(物理店舗)の比率はまだまだ後者が主流。
大手事業者とはAmazonをオンライン販売プラットフォームとして提供することで関わりを持っているが、レストランやカフェなどLocal Registerの想定利用者はAmazonと関わりを持たない。これらを取り込み、売上などのデータを得ることができれば、小売業界のテリトリーをさらに拡大できそうだ。
Kindleの販売を中止したウォルマートなど、小売業界では敵の多いAmazonだが、レストランなどは幸い競合関係にない。個人経営の書店はLocal Registerの導入をいやがるかもしれないが(それでも低い手数料は魅力だろう……)、飲食店、美容院、個人経営のヨガスタジオなどは嫌悪感が少ないはずだ。
問題はAmazonがウェブ上で収集しているエンドユーザーの履歴などのデータと統合するかどうかだが、Amazonではそのようなことはしないとしている。だが、Squareのようにエンドユーザー向けに(Local Registerと連携する)アプリを用意するかどうかには注目だ。
その場合、Amazonアカウントでログオン中に、Local Registerを導入している物理店舗でショッピングするというシナリオは十分考えられる。
筆者紹介──末岡洋子

フリーランスライター。アットマーク・アイティの記者を経てフリーに。欧州のICT事情に明るく、モバイルのほかオープンソースやデジタル規制動向などもウォッチしている

この連載の記事
- 第317回 中国でシェアトップのOPPOが半導体部門を閉鎖 欧州でも事業縮小?
- 第316回 事業を整理するAmazon フィットネスデバイス「Halo」は日本上陸がないまま終了
- 第315回 Galaxy S23は前機種以上の販売が予想されるも、半導体需要縮小で苦しい業績続くSamsung
- 第314回 ファーウェイ創業者の娘でカナダで拘束されていた孟晩舟氏がトップに 昨年の売上は横ばい、利益は大幅減
- 第313回 米国の制裁から3年 ファーウェイは「1万3000点の部品を中国製に入れ替えた」
- 第312回 「危機を脱した」と宣言したファーウェイに対し、米政府が輸出を全面禁止の動き
- 第311回 第3のモバイルOSブームから10年、インドが独自のBharOSを発表! 当面は政府機関や企業向けか!?
- 第310回 閉幕したサッカーW杯でモバイル業界的には目立ったvivoの存在
- 第309回 前年同期比30%増で成長する世界のスマートウォッチ市場 最大市場はインドに
- 第308回 人口でまもなく中国を抜くインドはスマホ市場もまだ成長が続く 自国メーカーLAVAが「5G最安」の1万円台で5Gスマホ
- 第307回 EUによるスマホのUSB-C義務付けが正式に採択 アップルは「従う」
- この連載の一覧へ