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まつもとあつしの「メディア維新を行く」 第47回

セルフパブリッシングの未来(6)

ベストセラー連発の投稿小説サイトE★エブリスタは4年間で書籍化300作品!

2014年08月29日 09時00分更新

文● まつもとあつし

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NEXTスマホ作家の生計を支援する「スマホ作家特区」。選ばれたクリエイターには月額10~20万円の生活費が与えられる

作家を経済的に支える「スマホ作家特区」
生活費のほか、将来は都内の生活基盤も用意

―― やはり気になるのは“お金”の部分です。E★エブリスタにおける、金銭面での作家支援についてお聞かせください。

池上 「まさにスマホ作家特区がそれにあたりますね。

 お金の面は昔から悩ましいものがあります。去年の夏に販売プラットフォーム、つまり作品を販売できる仕組みを始めたのですが、思っていたよりも売れ行きが凄かった。でも、それが一部のジャンルのみ突出していて、いわゆる昼ドラっぽい感じのモノが多かったんです。

 とはいえ、E★エブリスタの掲載レギュレーションに則ったもので、海外の『フィフティ・シェイズ・オブ・グレー』みたいな表現があるわけではないのですが、ややマイルドなロマンス小説がひと月の売上100万円を達成しました」

―― 販売単価は?

池上 「40円から120円の間で自由に値付けができます。ページ数は最大40ページなので、書籍1冊分のボリュームになるともう少し高くなっていくわけですが。ランキング1位作品の売上が200万円を突破した際にはリリースも出しました。このとき単価は40円でしたから5万部売れたことになりますね」

2014年4月には1部40円で5万3872部を販売して月間200万円を達成した作品が登場

―― 1つあたりのページ数が少ないとはいえ、5万はすごい数字ですね。

池上 「すごい結果を残すことができたのですが、ほかのジャンルはまだまだなところがあって、『なぜ恋愛ものだけが売れるんだろう』という話は先ほどの作家会議でも話し合うのですが、恋愛ものを手がける人たちからすれば、別に恋愛だから売れているんじゃなくて、わたしたちが努力しているから売れているんだっていう意見も実際あって(笑)。

 確かに工夫はみな凄まじいものがあって、文章の切り方とか改行の入れ方とか、冒頭はこういう山場から始めるべきとか、もう緻密に分析された、ある意味マーケティングされている感じなんですよね」

―― なるほど……。

池上 「その是非はともかく、ほかのジャンルもなんとか伸ばしていきたい、では売れるまで作家を経済的に支えようということで、月間10万円または20万円を支給するスマホ作家特区という仕組みを作ったんです」

―― 週刊連載のマンガ家さんも、単行本が出ていない段階では原稿料だけだとそのくらいの金額だと伺ったこともあります。それに通じるものがあるかもしれませんね。この仕組みに選ばれるにはどういった手続きがあるのでしょうか?

池上 「公募をしています。集まった方の実績と今後の可能性を見極めて、不定期で発表しているという形です。元SDN48のなちゅさんを二期生として選ばせていただいたりもしています。芸能関係の方ですが、クオリティーの高い作品をきちんと締切までに沢山書いていただけているんですよ。

 そして金銭だけではなく、スマホ作家特区に選ばれると、色々なサポートを受けられるよう仕組みを整えているところです。先ほどお話した我々のサポートのほか、石田衣良さんの小説スクールに参加できる権利を得られたりとか、スマホ作家会議にも交通費を出してご招待といったトータルサポートを提供します。今後は都内に作業スペースや生活の場を用意するといった準備も進めています」

スマホで小説を書いて読む

―― かつてのケータイ小説と、スマホ向けを強調するE★エブリスタで展開される作品の違いとはなんでしょうか?

池上 「スマホ向けはやはり独自の文法があると感じています。ケータイ小説同様、文章の長さとか改行など様式はもちろん、内容についても、かつての10代が書いて10代が消費していた感のあるケータイ小説よりも、書き手・読み手の層が広がり、ホラーやパニックもの、時代ものなどジャンルも拡がっている、あるいはその可能性があると感じています。

 とはいえ、スマホでウケるもの、紙じゃないとウケないものというのは厳然とあると思いますので『わたしはスマホ向けにやりたいんだ!』という人は、スマホ作家特区に応募してほしいとも思っています」

スマホ作家特区の第一期では5名が選ばれた

―― コミックの世界でもいわゆるティーンズラブや、アダルトが中心だったケータイの時代から、同じようにジャンルの拡がりが指摘されていますね。

池上 「同じ流れだと思いますね。

 “様式”のほうはもう一皮むける必要があるんじゃないかと個人的には思っていて、スマホで書いて、スマホで読むには、ケータイのときとは違う“何か”が要るのではと」

―― スマホで書く……やはりそうなんですか?

池上 「スマホで書いている人が結構多いですね。ケータイのときには絵文字に対応して書いていた人も、絵文字が減っていたりとか、自然と変化はあって、それなりにスマホっぽくなった気はするんです。

 でも、“スマホになったらメールがLINEに取って代わった”というところまでは脱皮していない気がするので、(脱皮してもらう)施策をじつは今仕込んでいたりもします。具体的には、小説を書いてE★エブリスタに簡単に投稿できるアプリの準備を進めています」

―― ほう!

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