アスキークラウドは今号で休刊です。創刊した雑誌がなくなるのは悲しいですが、出版社であるKADOKAWAとネット企業であるドワンゴが経営統合する以上、「激変する経済をクラウドの観点で読み解く」という本誌の役割は終わったな、とも感じています。
全ての起点はアップルのアイフォーンです。スティーブ・ジョブズがパーソナルコンピューティングをインターネット時代に適合させた結果、検索エンジン業だったグーグルも、オンラインストアだったアマゾンも、今ではそれぞれの本業を強化するためにスマートフォン事業に参入しています。携帯電話やデジタルカメラだけでなく、時計や計算機、電子辞書、ゲーム機などの携帯機器、さらにはメモ帳や書籍、雑誌に至るまで、あらゆるものがスマートフォンに飲み込まれ、「クラウドの端末」になったのです。
最も割を食ったのがパソコンです。といってもパソコンそのものはオフィスや創作活動用に今後も使われ、なくならないでしょう。問題はブラウザーを起動したときの最初に見る画面です。とりあえずニュースが表示され、検索やオークションなどを利用できる。日本メーカーのパソコンは初期設定でヤフー!ジャパンが表示されるのが常でした。
ところが、アップルやグーグルの台頭に危機感を抱いたマイクロソフトは、ウィンドウズ8以降、自社の検索サイトである「ビング」以外を初期設定にすることを事実上禁止したといわれています。
ヤフー!ジャパンの力の源泉は、日本一のポータルサイトを運営していることです。初期設定から外れてしまえば「日本一のポータルサイト」の座は時間とともに揺ぎます。そこで打ち出されたのが一連の無料化施策です。ショッピングやオークションの初期費用と毎月の固定費を無料にしたのです。多くのメディアは無料化の意味が分からず「ヤフーが手数料無料で初の減益」などと報じていますが、その理由は簡単です。自社サイトに出品される商品が増えれば、利用者がページを見る機会も多くなり、たとえ買われなくても、誰がどんな商品を欲しているのか、Tポイントとも結び付いた利用者情報を蓄積できます。
ニュースや転職、不動産の情報サイトもありますから、どんなニュースに関心を持ち、支持政党はどこで、職業は何で、どの程度の収入なのかも推定できるでしょう。アップルやグーグル、アマゾン、フェイスブックなど、世界中の利用者のニーズを知る企業にはかなわないかもしれませんが、日本にもビッグデータ企業が誕生しそうなのです。
どこにニーズがあるか分からないからこそ、市場調査やマス広告があります。しかし、ビッグデータ時代には新聞や雑誌はもちろん、テレビ局やテレビメーカー、広告代理店もまったく安泰ではありません。死に瀕ひんしているといっても過言ではないでしょう。本誌ではこれまで、アマゾン、テレビ、スマホ、決済、ゲーム、流通などを特集し、今号では総集編としてオムニチャネルを取り上げました。ニュースの裏にどんな意味があるか分からないときは、アスキークラウドのバックナンバーを開いてください。そこに答えがあるはずです。

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