思いつきでも素人でも良い音にしてくれる
音作りの面ではVCFに特徴があり、MoogやARPのシンセで使われていた可変幅の極端な4ポールではなく、柔らかな変化をもたらす2ポールを採用していたSEMらしさがあります。ツマミのコントロール幅が扱いやすい範囲にうまく収まっていて、思いつきにまかせていじってもそれなりに使える音になってくれるのもありがたい点だと感じました。
パラメーターがツマミの向きとメーターのみで表示され、視覚的には数値表示されないあたりにもアナログシンセらしさを追求したこだわりが感じられました。
またシンセアプリにありがちな、「とりあえず付けてみました」というような中途半端な録音およびシーケンサー機能などを省いたのは英断だと思いました。WIST機能(Bluetoothを利用したMIDI連携機能)やCORE MIDIで、PCなどから操作する外部音源として充分使えるアプリだからです。
音作りがよくわからない人でも、3種類の波形からオクターブ下の音を追加して音色に厚みをつけるSUB OSC(サブオシレーター)や、音の立ち上がり方でうねりを演出するPORTAMENTOなどをいじるだけで、新しい音を作れる楽しみがあると思います。
個人的には「PW Litetrance」というプリセットをベースに、ARRPEGGIATORをHOLD状態にし、VOICE PROGRAMMERでVCF FREQの波を作り、VCFのRESONANCEやNOTCHフィルターをリアルタイムにコントロールし、音を暴れさせて楽しんでいます。4つ打ちビートのトランスに合いそうな浮遊感のあるサウンドをイメージしています。
またPERF画面で使用できる4つのパラメーターゲージも、ほかのアナログシンセ系アプリでよく採用されているX/Yパッドと同じような感覚的な操作でOK。また綿密な設定が可能な、バータイプのコントローラーはなかなか便利です。
惜しい点としては、ファクトリープリセットの音色を切り替えた際にあらかじめ各パッチごとに設定された音量に切り替わってしまうところです。Aというパッチで音量を100%に設定しても、Bというパッチを読み込むと80%に切り替わってしまい、その都度音量を100%に戻す必要があります。
ユーザープリセットで設定を変えて保存しておけば済むのですが、ファクトリープリセットからさまざまな音色を試す際には少々わずらわしく感じる点でした。
また複数のパネルコントロールを持つアナログシンセのアプリには避けがたい点として、パネル上のスイッチやツマミ類が小さくコントロールしづらいところもあります。なのでMIDIフィジカルコントローラーを組み合わせて使うと、より楽しめそうだと思いました。
独特の浮遊感を持ったサウンドと実用的なコントロール系を兼ね備えたArturia iSEMは、ここしばらくのお気に入りシンセアプリになりそうです。
藤村 亮(ふじむら りょう)
1981年生まれ、Ibanez製7弦ギターを手に世界を渡り歩くロックミュージシャン。2006年にバンド"AciD FLavoR"の7弦ギタリストとしてメジャーデビュー。2008年よりベルギーのインディーズレーベルと契約し、"Ryo Fujimura"としてソロ活動を開始。ヨーロッパ最大の日本文化イベント"JapanExpo"や各国のJ-Musicイベントにゲスト参加した。2012年からは活動の幅をメキシコにも広げ、3度のライブツアーを敢行。さらに、2013年11月にはヨーロッパツアーを終え、2014年1月1日から一日一曲アップロード企画「Daily Sound Scape」をSoundcloud上で開始。
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