再生環境も含めて提案
アナログ盤を買ったとして、問題はそれを再生する装置だ。往年のリスナーならターンテーブルくらい持っているのだろうが、若いリスナーにはハードルだろう。そこで、アナログプレイヤーの入口として、各種のポータブルプレイヤーも商品として並んでいる。
また、1F奥にはハイエンドのアナログ再生用機材として、エルプが製品開発したレーザー・ターンテーブル(レコードの溝を光学的に読み取って再生する)が置かれている。なかなか試聴する機会のないプレイヤーだが、店員さんにお願いすると試聴できるので、渋谷店に行ったらぜひ試していただきたい。
レーザー・ターンテーブルは、お値段は152万円(税別)とおそろしい値段が付いているが、中古レコードの再生にはうってつけだ。アナログ盤が消耗するのは、レコード針が当たるレコード溝の下側だが、レーザーは摩耗していない溝の上側を読み取るので、摩耗の影響を受けない。
鍵はレコード需要と渋谷の行方
果たして中古レコードをメインに据えた店舗は成功するのだろうか。当初は疑問符だらけだったが、久しぶりに大量のアナログメディアを目にし、実際に手にとって確かめてみるのは、想像以上に楽しかった。最近の「RECORD STORE DAY」の盛り上がりもわかる気がする。
不安要素は、渋谷という街そのものにある。渋谷駅地下化の失敗から、人がただ素通りするだけの不便な乗換駅になりつつある。この状態が続けば、いずれ「若者の街」を卒業することになるだろう。それがそのまま「かつて若者だった人たちの街」に変わってゆくなら、レコード黄金時代の記憶を売る店として、HMVのこの新業態は、確かにマッチするのかもしれない。
しかし、まだ誰も知らない、評価もされていない音源を求めて、かつて宇田川町界隈に日参していた人間としては、再び新しい音楽文化の発信拠点として成長することを期待せずにはいられない。もっとも、それこそがノスタルジーなのかもしれないが、CD販売もダウンロード配信も伸び悩んでいる今、新しい試験場として注目したい。
著者紹介――四本 淑三(よつもと としみ)
1963年生れ。フリーライター。武蔵野美術大学デザイン情報学科特別講師。新しい音楽は新しい技術が連れてくるという信条のもと、テクノロジーと音楽の関係をフォロー。趣味は自転車とウクレレとエスプレッソ