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まつもとあつしの「メディア維新を行く」 第46回

ユニバーサルミュージックのキーパーソン・鈴木貴歩氏に訊く

Spotify上陸直前――定額配信とリアルイベントは音楽に何をもたらす?

2014年08月26日 09時00分更新

文● まつもとあつし

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共同創設者として鈴木氏が手掛ける「THE BIG PARADE」は、SXSWに代表されるカンファレンスを伴った複合型の音楽イベント。業界人がそれぞれの垣根を越えて意見を交わす日本初の試みだという

音楽イベント「THE BIG PARADE」の意義

―― 鈴木さんは、9月12日~15日に開催される日本初の音楽総合イベント「THE BIG PARADE」のコ・ファウンダー(共同創設者)でもあります。これはどういった狙いのイベントなんでしょうか? CDではなくライブで収益を拡大するという昨今の流れに沿ったものなのですか。

豊富なトークセッションがTHE BIG PARADEの見どころの1つ

鈴木 「いえ。このイベント自体は儲かるものではないと思います(笑)。

 ここまでお話ししてきたようなサブスクリプションサービスの興隆や、それに対応したマーケティングを考えなければならないタイミングを迎えるなか、業界の垣根を越えて意見を交すような場が必要だと、MTV牧野晃典氏(MTV Networks Japan株式会社 広告営業本部本部長)と意気投合して、このようなイベントを企画しました。

 ネットで音楽を聞いてもらうだけでなく、CDのようなパッケージを売る際にもデジタルを活用する余地はまだまだあるわけですから」

―― アニメの世界だと、分裂していたTAF(東京国際アニメフェア)とACE(アニメコンテンツエキスポ)という展示会を1つにまとめてAnimeJapanとして開催したり、アニプレックスの高橋ゆまさんがアニメ各社の宣伝プロデューサーが持ち回りで更新するブログを始めたことなどを思い起こします。

鈴木 「僕もAnimeJapanには足を運びました。音楽にはまさにそういう場がこれまでなかったなと感じたんですね。海外にはたくさんあるにも関わらずです。フランスのカンヌにはMIDEM、イギリスにはグレートエスケープ、アジア圏のシンガポールではミュージックマターズという大規模なイベントがあります」

―― 日本の場合だと、各地で開催されるフェスに色々なアーティストが集いますが、ちょっとそれらとは位置づけが違うわけですよね?

鈴木 「そうですね。どちらかと言うとBtoBの色彩が強いイベントになりますね。ブログやTwitterではアーティストや僕らのような業界関係者が、あれこれ意見を言うということはありましたが、音楽業界全体で考えるという場は初めてだと思います」

―― なるほど。レコード販売を中心に手がけるユニバーサルミュージックとしても、そこで問題意識を共有したり、ライブやITなど垣根を越えたパートナーとの交流が生まれることで、自社としてのメリットもある、ということかもしれないですね。

鈴木 「ユーザーに届く一歩前に業界の隅々まで、そして音楽業界だけじゃなくて、音楽は広告でも使われるし、クリエイティブ業界ともコラボレーションしているので、そういったいろんな関連性のある業界全体に新しいアイデアやビジョンが浸透していくと、面白いことがどんどん起こるはずです。その過程そのものをイベントでは消費者の方と一緒に楽しんでいただこうと思っています」

―― アメリカではIT×音楽のイベントとしてはSXSW(サウスバイサウスウェスト)が有名ですが、そんな場になると良いですね。私も期待していたいと思います。

SXSWは、業界を越えたゲストが集うトークイベントとしての性格も強い。過去にはTumblrやKickstarterといったソーシャルサービスの代表も登壇している

鈴木 「はい。今年のSXSWでは、いろんなサブスクリプションサービス……それこそGoogleやPANDORAといったストリーミング系のキーパーソンが一堂に集い、“Man vs. Machine”というテーマで議論していたのが印象的でした。プレイリストは人が作るべきかマシンが作るべきかといった、アルゴリズムでパーソナライゼーションすることの是非という議論まで彼らは行なっているんです。

 例えば先日Appleが買収したBeatsは、Beats Musicというサブスクリプションサービスも展開しています。Beats Musicはスタート以来、音楽メディアのエディターをどんどん引き抜いています。“プロの音楽編集者がつくるプレイリスト”が彼らの売りなんです。

 彼らが言っていたのは、単にユーザーの行動から出る最適化よりも、そういったエディトリアルな視点からのプレイリストのほうがユーザーの信頼を得られるんじゃないかと」

―― まさに創立時のアマゾンのようですね。アマゾンもエディターを雇い特集コーナーに力を入れていましたが、その後アルゴリズムに軸足を移しました。

鈴木 「音楽ってネクストヒットを常に提案するエンターテインメントなので、そういう意味ではエディトリアルが重要だと考えています。日本ではまさにこれからというタイミングではありますが、音楽ファンにも楽しんでもらいつつ、こんな議論を深める場にすべくがんばります!」

著者紹介:まつもとあつし

 ネットベンチャー、出版社、広告代理店などを経て、現在は東京大学大学院情報学環博士課程に在籍。デジタルコンテンツのビジネス展開を研究しながら、IT方面の取材・コラム執筆などを行なっている。DCM修士。
 主な著書に、コグレマサト氏との共著『LINE なぜ若者たちは無料通話&メールに飛びついたのか?』『LINEビジネス成功術-LINE@で売上150%アップ!』(マイナビ)、『ソーシャルゲームのすごい仕組み』(アスキー新書)など。
 Twitterアカウントは@a_matsumoto

イベント告知
 9月21日(日)に京都大学にて「クラウド化・定額化がもたらすデジタルコンテンツとビジネス・エコシステム」と銘打ったワークショップを開催します。時間は09:30~11:30、場所は吉田南総合館(北棟)共北3D演習室です。今回ご登場いただいた鈴木貴歩氏(ユニバーサルミュージック合同会社)、そしてマンガボックスのプロジェクトを取り仕切る川崎渉氏(株式会社ディー・エヌ・エー)、さらに境真良氏(経済産業省)をお招きし、東京大学大学院の田中秀幸教授の司会のもと、報告と意見交換を行ないます。社会情報学会の一般公開プログラムとして開催されますので、本ワークショップについてはどなたでも[無料]で参加可能です。詳しくは、田中秀幸研究室Facebookページにて随時、ご案内します。

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