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FJM、サイボウズ、KDDIまとめてオフィスの各社が本音を吐露

中小企業にクラウドは売れる?ITACHIBAで聞いたベンダーの主張

2014年08月06日 09時00分更新

文● 大谷イビサ/TECH.ASCII.jp

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7月16日、ITACHIBA会議の2回目が開催された。今回はおもに中小企業のIT活用にフォーカスし、ベンダー同士のディスカッションが展開された。前半では富士通マーケティング(FJM)、サイボウズ、KDDIまとめてオフィスの3社が中小企業のクラウド導入について語った。

中小企業にとってITは価値があるのか?

 ITACHIBA会議はベンダー、ユーザー企業、SIerなどが自身の立場を超えてITの活用について理解を深め、討論を行なうイベント。特定のテーマに基づいたセッションのみならず、複数の登壇者によるパネルディスカッション、さらに参加者と登壇者まで入り乱れたワールドカフェが開催されるのが特徴となっている。

 3月に開催された第1回目の「ITACHIBA会議」ではIT部門やSIerの未来を語る」といったテーマでディープなセッションと白熱の討論が行なわれた。2回目は、中小企業に強い調査会社のノークリサーチの伊嶋謙二氏が発起した「中小企業にとってIT(クラウド)は役立つのか?」というテーマが討論された。

イベントの冒頭に登壇したノークリサーチの伊嶋謙二氏

 冒頭に挨拶した伊嶋氏は、今回のテーマについて「ベンダーが提供しているクラウドサービスは本当にユーザーに刺さっているのか? 中小企業向けサービスは儲かるのか? 企業にとって役立つITとベンダーの儲けって成り立つのか知りたい」と語った。

クラウドって売れる商材?ベンダーのパネルディスカッション

 今回のイベントの目玉は、ベンダー同士、エンドユーザー同士のパネルディスカッションだ。 一般社団法人クラウドサービス推進機構 理事である松島桂樹氏をモデレーターとして進められたベンダーのパネルディスカッションでは、クラウドマーケットプレイス「azmarche(アズマルシェ)」を手がける富士通マーケティング(FJM)、cybozu.comを展開するサイボウズ、ITや通信、オフィス用品までワンストップで提供するKDDIまとめてオフィスの担当者が登壇した。

 冒頭、モデレーターの松島氏は、「中小企業でのクラウド導入はまだまだという認識が一般的。普及しない理由はさまざまで、よいサービスがない、ベンダーとユーザーの間の販売体制が整っていない、ユーザーのレベルが追いついていない、などいろいろ言われる。まずはタイプの異なるベンダーに集まってもらい、それぞれのサービスやビジネス、課題などを語ってもらうことにした」とパネルの内容について語った。

(左から)KDDIまとめてオフィス取締役 菅雅道氏、富士通マーケティング 執行役員 商品戦略推進本部 副本部長 浅香直也氏、モデレーターの松島桂樹氏、サイボウズ マーケティングフェロー 野水克也氏

J-SaaSを継承するazmercheは手探りのビジネス

 冒頭、登壇した富士通マーケティング(FJM)の浅香直也氏が、3月にスタートしたazmarcheについて説明した。富士通マーケティング(旧:富士通ビジネスシステム)は中小企業をターゲットにした富士通グループのSIerで、中小企業のためのクラウドのマーケットプレイスのazmarcheを展開している。

 azmarcheでは、さまざまな評価を受けているJ-SaaSを引き継ぎ、各社のSaaSを低い敷居で導入できるのが売り。「メーカーとしての富士通の名前を出すのはなるべく控え、とにかく安心して使えるサービスを集めている」(浅香氏)という中立性を謳う。当然、マーケットプレイスということで、商品やサービスの競合もあり得るが、浅香氏は「この分野は必ずしもうちが強いわけではない。競争の結果として、うちの商品が淘汰されてしまったら、それはしようがない」と言い切る。

 また、パートナーを前提とした従来と異なり、仕切販売をしないというのも大きな特徴。登録サポーターを集め、成功報酬型のコミッションを払い続けるというやり方でサービスを展開しているという。

azmarcheでは従来の仕切販売のパートナー制を捨てる

登録サポーターが大きな役割を担うビジネスモデル

 ただ、知名度や品数、紹介者などが不足しているのが現状。そもそも、マーケットプレイスというビジネスモデルが日本になじむかどうかもわからないという。「国が進めていたJ-SaaSと異なり、民間企業としては、撤退のリスクはつねにある。経営者とわれわれの我慢比べ」(浅香氏)とのことで、苦戦しているのが実情だ。2016年で1万社を目指しているが、「130万社とか150万社と言われている中小企業の数を考えれば、ベンダーも、ユーザーも知恵を出し合っていかないといけない」(浅香氏)という。

サイボウズのクラウドは予想以上に売れているけど

 一方、サイボウズにとってクラウドは予想以上に売れているという立場だ。サイボウズの野水克也氏は、「パッケージ2に対して、クラウド10くらいで売れている。世の中のクラウド化は思いのほか進んでいる」と語る。ユーザー数も7000社と順調に伸び、高いシェアも実現。しかし、60億円すでに投資しているため、なかなか利益という部分にまで至っていないのも事実だ。「全部国産で作りあげて、日本のクラウドの火を守ろうとしている」(野水氏)。

中小企業のクラウド導入は進んでいないという前提に対し、cybozu.comは予想以上に売れている

 このようにサイボウズとしてはクラウドは売れていると認識しているが、導入する前のユーザーとは「価格」「商慣習」「機能」という3つのギャップがあるという。

 一番大きいのは価格。「スマホが6000円、新聞が3000円、ゴルフ行ったら1回2万円。それ考えたらkintoneの1人780円/月は高くない。システムの価値が低く見られて、ちょっと悔しい」と野水氏は語る。また、「とにかく来てくれ」という商慣習もコストに見合わない。「高校生でも1時間働いたら800円、月収30万円の人も3400円なので、往復2時間かけらたら、数ヶ月分の使用料が吹っ飛ぶ」(野水氏)。さらに機能が合わないという声もあるが、そもそもオーダーメイドの必要性があるのかを検討する必要があると指摘する。

 こうした話を踏まえ、ベンダーとユーザー側が意見をすりあわせるのは、やはりコストとサービスの妥協点だ。「弊社のクラウドサービスでは、開発やシステムコストは20%程度に過ぎない。大きいのはやはり人件費」とのことで、クレジットカード決算、ノーサポートであれば、もっと安く提供できるとのこと。裏を返せば、現在サイボウズのクラウドを導入している企業はあくまで「進取の気性に富むフロンティアスピリットのあるみなさん」で、請求書発行やオンサイトサポートにこだわるいわゆる普通の日本企業にはまだまだクラウド導入に行き着いていないと指摘した。

システムコストよりも人件費がかかるクラウドビジネス

(次ページ、営業マンによる地上戦にこだわるKDDIまとめてオフィス)


 

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