町に置かれたucodeマーカーを使い、モノや場所を認識
YRP UNLは、2002年に設立した「IoTに特化した唯一の研究所」(坂村質所長)だ。モノや場所などを識別する世界共通のIoT向けネットワーク解決型汎用識別番号である、国際標準のucodeの普及活動にも取り組んでおり、これを活用したucodeマーカーを、東京・銀座を中心に数1000カ所に設置。それを通じてエンドユーザーを持つ各種デバイスに、各地域の情報を提供する。さらに、火災報知器や競走馬、電子地図といった幅広い分野でも活用されており、出荷規模は数1000万個規模に達しているという。
「世界最大のソフトメーカーであるマイクロソフトに注目してもらったことで、より多くの人に利用してもらえる環境が整った。オープンデータの活用提案も、それを使ってもらえなくては意味がない。その点でも今回の提携は意味がある」と坂村教授は語り、「TRONの基本はオープンであるということだった。私が取り組むからにはucodeもオープンである。TRONは、今年でちょうど30年目を迎えるが、組み込み市場では6割のシェアを持つ。TRONは、独立した端末に搭載される組み込み型OSであったが、ucodeは、ネットワーク時代における新たな組み込みソフトウェアである」などと述べた。
坂村所長が開発したTRONは、日の丸OSとして注目を集め、マイクロソフトのMS-DOSやWindowsとの対立構造で語られることが多かった。
今回の提携を前に、2003年には、TRONとWindows CEとを連携させ、新たなOSを開発するという共同発表を行い、当時の報道では「和解」という言葉が見出しに踊った。
坂村所長はそのときのエピソードを改めて持ち出し、「もともとTRONとマイクロソフトは、喧嘩しているわけではない。10年前には和解と書かれたが、喧嘩していないのだから和解という言葉は適切でない」などと語り、対立構造での捉え方を否定してみせた。
だが、「TRONも30周年を迎え、我々も成熟したし、マイクロソフトも成熟した」と付け加えるあたりは、坂村所長ならでのユーモアだ。
また、「TRONとWindows CEとの連携は確かにうまくいかなかった」と認めながら、「x86環境においては、TRONとWindowsをHyper-Vで活用するという用途が多い。そうした成功事例もある」と語り、「一度うまく行かなかったから、マイクロソフトとの提携をやめるのではなく、今回、改めて提携したように、生きている限り、なにかしらやることになるだろう」と述べた。
日本マイクロソフトの加治佐CTOも、「当時は、Windows CEとTRONの技術の両方を知っている人が少ないということもあり、うまくいかなかった。だが、今回は環境が大きく異なる。様々なことが重なりあって、こうした提携が生まれている。今度はうまく行くだろう」と語る。
TRONの坂村氏と、日本マイクロソフトとの連携は、新たな情報サービスを生むことになりそうだ。
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